外国人社員を雇用する企業では、仕事の指導や生活面のサポートだけでなく、メンタルヘルスに配慮した職場環境づくりも重要です。
外国人社員は、日本語によるコミュニケーション、文化や生活習慣の違い、家族と離れて暮らす不安、職場の人間関係、仕事へのプレッシャーなど、さまざまなストレスを抱えることがあります。
特に、特定技能外国人を雇用する企業では、入社直後の生活支援だけでなく、仕事に慣れた後も継続的に状況を確認し、安心して働き続けられる環境を整えることが大切です。
例えば、業務指示を十分に理解できずにミスが続いたり、上司に相談できずに悩みを抱え込んだりすることがあります。また、家族の問題や生活費への不安など、職場だけでは把握しにくい事情が仕事に影響する場合もあります。
こうした問題を本人の努力だけに任せるのではなく、企業側も職場環境や相談体制を見直し、必要な支援を行うことが重要です。
外国人社員のメンタルヘルスに配慮することは、本人の健康を守るだけではありません。職場内のコミュニケーションの改善、ハラスメントの防止、早期離職の予防、人材の定着にもつながります。
本記事では、外国人社員が抱えやすいストレスの原因から、企業が実施できる具体的な対策、面談の進め方、相談を受けた際の対応、特定技能外国人を雇用する企業や登録支援機関が注意すべきポイントまで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。
1.外国人社員のメンタルヘルス対策が重要な理由
メンタルヘルスとは、心の健康状態を意味します。
仕事や生活の中でストレスを感じることは誰にでもあります。しかし、ストレスが長期間続いたり、十分に休息を取れなかったりすると、睡眠や食欲、集中力、仕事への意欲などに影響が現れることがあります。
外国人社員の場合、日本での生活環境の変化や言語の違いなど、日本人社員とは異なる負担を抱えることもあります。
企業がメンタルヘルスに配慮する必要がある理由は、主に次の4つです。
① 外国人社員の健康と安全を守るため
精神的な負担が大きくなると、仕事への集中力が低下したり、疲労を感じやすくなったりすることがあります。
特に、介護、製造業、建設業、農業など、安全への配慮が重要な職場では、体調や精神状態を含めた健康管理が大切です。
ただし、仕事上のミスや疲労が見られたからといって、メンタルヘルスの問題があると決めつけてはいけません。
まずは本人の話を聞き、業務量、勤務時間、休憩、指導方法などに問題がないかを確認することが重要です。
② 早期離職を防ぐため
職場で悩みを相談できない状態が続くと、本人が問題を解決できず、退職を考えるようになる可能性があります。
例えば、上司の指示が理解できない、同僚との関係がうまくいかない、休日が少なく疲れが取れないといった問題があっても、相談先が分からなければ、本人だけで抱え込んでしまうことがあります。
企業が定期的に面談を行い、困りごとを早い段階で把握できれば、業務指導の改善や勤務状況の見直しなど、具体的な対応につなげられます。
③ 職場のコミュニケーションを改善するため
外国人社員のメンタルヘルス対策は、外国人社員だけを対象とした取り組みではありません。
分かりやすい業務指示、適切な指導方法、相談しやすい職場づくりは、日本人社員にとっても働きやすい環境につながります。
また、文化や言語の違いによる誤解を減らすことで、職場内のトラブルを予防しやすくなります。
④ 企業の労務管理を改善するため
メンタルヘルスの問題が発生した場合、その背景には長時間労働、過度な業務負担、不適切な指導、ハラスメントなどが関係していることもあります。
本人への声かけだけで問題を解決しようとするのではなく、職場全体の労働環境を確認することが必要です。
企業が職場の問題を早期に発見し、改善する仕組みを整えることは、労務管理の適正化にも役立ちます。
2.外国人社員が抱えやすいストレスとその原因
外国人社員のメンタルヘルスを適切に支援するためには、どのような場面で負担が生じやすいのかを理解する必要があります。
ただし、すべての外国人社員が同じ悩みを抱えているわけではありません。本人の日本語能力、仕事の経験、生活環境、家族構成などによって状況は異なります。
① 日本語でのコミュニケーションに関する不安
日本語での会話や業務指示を十分に理解できない場合、仕事上のミスや人間関係のトラブルにつながることがあります。
特に、専門用語、略語、曖昧な指示、早口の説明などは、外国人社員にとって理解が難しい場合があります。
例えば、上司から「適当にやっておいて」「いつものように対応して」と指示されても、具体的に何をすればよいのか分からないことがあります。
それでも、何度も質問すると迷惑になるのではないかと考え、分からないまま仕事を進めてしまうケースも考えられます。
企業が取り組むべき対策
- 短く、具体的で分かりやすい日本語を使う
- 専門用語や略語には説明を加える
- 重要な指示は口頭だけでなく、書面や図で伝える
- 作業手順書やチェックリストを用意する
- 本人が質問しやすい雰囲気をつくる
- 指示を理解できたか、本人の言葉で確認する
日本語能力だけを問題にするのではなく、伝える側の説明方法も見直すことが重要です。
② 文化や職場習慣の違いによる戸惑い
国や地域によって、コミュニケーションの方法、職場での上下関係、意見の伝え方などに違いがあります。
日本の職場では、報告・連絡・相談、時間厳守、周囲との協調などが重視される場面が多くあります。
しかし、こうした習慣を十分に説明しないまま、日本人社員と同じ対応を求めると、外国人社員が戸惑うことがあります。
また、本人が質問や意見を伝えないからといって、必ずしも仕事に関心がないとは限りません。
企業が取り組むべき対策
- 職場のルールや期待する行動を具体的に説明する
- 報告・連絡・相談が必要な場面を例示する
- 日本人社員にも異文化理解の機会を設ける
- 誤解が生じた場合は、双方の話を聞く
- 国籍や文化だけを理由に本人の行動を決めつけない
日本の職場習慣を教えることと、外国人社員の文化や価値観を尊重することを両立させる必要があります。
③ 家族と離れて暮らすことによる精神的な負担
外国人社員の中には、配偶者や子ども、両親などを母国に残して日本で働いている人もいます。
家族の健康問題、子どもの教育、母国の経済状況、将来の生活設計などが、精神的な負担になる場合があります。
また、仕事が忙しく家族と連絡する時間が十分に取れないことや、休日に話し相手がいないことが、孤独感につながることもあります。
企業が取り組むべき対策
- 仕事や生活について定期的に話を聞く
- 休日や休暇を適切に取得できるようにする
- 地域の交流イベントや生活相談窓口を紹介する
- 生活上の問題について相談できる担当者を明確にする
- 本人が希望しない限り、家族の事情を無理に聞き出さない
家族の問題を企業がすべて解決することはできませんが、安心して相談できる環境を整えることは可能です。
④ 職場の人間関係や指導方法に関するストレス
上司や同僚との関係、指導方法、業務量なども、精神的な負担に影響することがあります。
例えば、人前で強く叱責される、質問をしても十分に説明してもらえない、外国人であることを理由に不公平な扱いを受けるといった状況です。
本人が問題を相談できなければ、職場への不信感が強くなり、働き続けることが難しくなる可能性があります。
企業が取り組むべき対策
- 指導担当者の役割を明確にする
- 人格を否定するような指導を避ける
- 注意や指導は、できる限り具体的な改善方法とセットで伝える
- ハラスメントや差別に関する相談窓口を設ける
- 外国人社員だけでなく、日本人社員の話も確認する
業務上必要な指導と、相手の尊厳を傷つける言動は区別しなければなりません。
⑤ 生活費や将来に対する不安
日本で働く外国人社員の中には、母国への送金、住居費、生活費、借入金の返済などについて不安を抱えている人もいます。
また、契約内容や給与明細を十分に理解できず、自分の収入や控除について不安を感じることもあります。
企業が取り組むべき対策
- 雇用契約の内容を分かりやすく説明する
- 給与明細の基本的な見方を案内する
- 賃金や控除について質問できる窓口を設ける
- 生活上の困りごとを相談できる体制を整える
- 必要に応じて自治体などの公的相談窓口を紹介する
特に、給与や労働条件に関する不明点は、精神的な不安だけでなく、会社への不信感にもつながるため、丁寧な説明が重要です。
3.外国人社員のメンタルヘルスに配慮するための7つの取り組み
外国人社員が安心して働ける環境を整えるには、一度の面談や入社時の説明だけでは十分ではありません。
日常的なコミュニケーションと継続的な職場改善を組み合わせて取り組むことが重要です。
① 定期的な面談を実施する
定期的な面談は、外国人社員の仕事や生活の状況を把握するための重要な機会です。
面談では、業務の進捗だけでなく、職場の人間関係、勤務状況、生活上の困りごとなども確認します。
ただし、面談は本人を評価したり、問題を無理に聞き出したりするためのものではありません。本人が安心して話せる環境を整えることが大切です。
面談で確認したい項目
| 確認項目 | 確認する内容 |
| 仕事の状況 | 業務内容を理解できているか、困っていることはないか |
| 人間関係 | 上司や同僚とのコミュニケーションに問題はないか |
| 勤務状況 | 残業や業務量が負担になっていないか |
| 生活環境 | 住居や生活上の困りごとはないか |
| 休息・健康 | 十分な休息を取れているか、体調面で気になることはないか |
| 相談事項 | 会社に相談したいことや改善してほしいことはないか |
面談の最後には、会社側が対応する事項と、対応予定の時期を可能な範囲で明確にします。
相談を受けたにもかかわらず、その後何も対応しなければ、本人が「相談しても意味がない」と感じる可能性があります。
面談後の対応まで含めて管理することが重要です。
② 相談窓口と相談方法を明確にする
外国人社員が困りごとを抱えていても、誰に相談すればよいのか分からなければ、問題の解決が遅れてしまいます。
そのため、相談担当者と相談方法を明確にし、入社時だけでなく、必要に応じて繰り返し案内することが大切です。
具体的な取り組み
- 相談担当者の氏名や連絡先を周知する
- 母国語で相談できる方法を検討する
- 対面、電話、オンラインなど複数の相談方法を用意する
- 相談したことを理由に不利益な扱いをしない方針を明確にする
- 相談内容に応じて専門部署や外部機関につなぐ
- 相談への対応状況を確認する
上司本人との関係に問題がある場合、その上司だけを相談先にすると、本人が相談をためらう可能性があります。
直属の上司以外にも、人事担当者、支援担当者、外部相談窓口など、複数の選択肢を設けることが望ましいでしょう。
③ 分かりやすい業務指示と教育体制を整える
業務内容を理解できない状態が続くと、本人の不安が大きくなり、仕事への自信を失う可能性があります。
特に入社直後は、業務手順だけでなく、安全上の注意点や職場のルールについても、段階的に説明することが重要です。
具体的な取り組み
- 写真や図を使った作業手順書を用意する
- 業務を小さなステップに分けて教える
- 習得状況を確認しながら指導する
- 質問や確認を歓迎する姿勢を示す
- 習得できていない業務について、追加説明や再指導を行う
また、本人の理解不足だけを問題にするのではなく、教育方法や指導時間が適切かどうかも確認しましょう。
④ 日本人社員への研修や情報共有を行う
外国人社員のメンタルヘルス対策は、本人への支援だけでは十分ではありません。
一緒に働く日本人社員や管理職が、言語や文化の違いに配慮したコミュニケーション方法を理解することも重要です。
例えば、次のようなテーマを社内研修で取り上げることが考えられます。
- やさしい日本語による業務指示
- 外国人社員への適切な指導方法
- 文化や生活習慣の違いへの理解
- ハラスメントや差別的な言動の防止
- 相談を受けた際の基本的な対応方法
- 困ったときの社内相談窓口
研修では、知識を説明するだけでなく、実際の職場で起こりやすい事例を使って考えると、日常業務に取り入れやすくなります。
⑤ 労働時間や休息の状況を確認する
長時間労働や休息不足が続くと、心身への負担が大きくなる可能性があります。
企業は、本人の様子だけで判断するのではなく、勤務記録や業務量なども確認することが重要です。
確認したいポイント
- 時間外労働が過度になっていないか
- 休憩時間が確保されているか
- 休日を適切に取得できているか
- 夜勤や交替勤務による負担が大きくなっていないか
- 業務内容と人員配置が適切か
- 休暇を申し出にくい雰囲気がないか
問題が確認された場合は、業務の分担や勤務スケジュールなどを見直します。
外国人社員本人に我慢を求めるだけではなく、職場環境そのものを改善する視点が必要です。
⑥ ハラスメントや差別を防止する
外国人社員が安心して働くためには、国籍や言語能力などを理由とする不当な扱いを防止することが重要です。
例えば、外国人であることを理由に侮辱する、本人の理解度を確認せずに繰り返し叱責する、相談をしたことを理由に不利益な扱いをするといった行為は、職場環境を悪化させるおそれがあります。
企業は、ハラスメント防止に関する方針を明確にし、相談窓口と対応手順を整備する必要があります。
相談を受けた場合は、次のような流れで対応します。
- 本人が安心して話せる場所で相談を受ける。
- 本人の話を丁寧に聞き、必要な事実を確認する。
- 必要に応じて関係者からも話を聞く。
- 本人のプライバシーと安全に配慮しながら対応する。
- 必要な改善措置を講じる。
- その後、問題が再発していないか確認する。
相談があった時点で、事実関係を確認せずに結論を出すことは避けましょう。
一方で、確認に時間がかかる場合でも、本人の安全確保や必要な支援を後回しにしないことが大切です。
⑦ 専門家や外部相談窓口と連携する
本人の強い不安や精神的な不調が疑われる場合、企業の担当者だけで解決しようとすることは適切ではありません。
本人の意思や状況に配慮しながら、医療機関、産業医、保健師、公的相談窓口など、状況に応じた支援先を検討します。
なお、企業の担当者が診断を行う必要はありません。
仕事上の困りごとを整理し、本人が必要な支援を受けられるように調整することが、企業側の重要な役割です。
4.外国人社員との面談を効果的に進める方法
定期面談を実施していても、質問の仕方や面談後の対応によっては、本人の悩みを十分に把握できないことがあります。
面談を効果的に進めるためには、事前準備、面談中の聞き方、面談後のフォローを組み合わせることが大切です。
① 面談前に準備すること
面談前には、業務内容、勤務状況、前回の面談で確認した事項などを整理します。
前回の面談で会社側が対応すると約束したことがあれば、その進捗も確認しておきましょう。
また、本人が落ち着いて話せる場所を確保し、必要に応じて通訳や母国語での相談方法を準備します。
② 面談では答えやすい質問から始める
いきなり精神的な問題について質問するのではなく、仕事や生活の状況など、答えやすい内容から始めると、本人が話しやすくなる場合があります。
質問例
| テーマ | 質問例 |
| 仕事 | 「最近の仕事で、困っていることはありますか」 |
| 業務指示 | 「仕事の説明で、分かりにくいところはありませんか」 |
| 人間関係 | 「職場で相談できる人はいますか」 |
| 勤務状況 | 「仕事の量や勤務時間について、負担を感じることはありますか」 |
| 生活 | 「日本での生活で、困っていることはありませんか」 |
| 休息 | 「十分に休めていますか」 |
| 改善点 | 「会社に改善してほしいことはありますか」 |
質問するときは、本人の回答を急かさず、必要に応じて具体例を挙げながら確認します。
また、「大丈夫ですか」と聞くだけでは、本人が問題を話せない場合もあります。
「何か困ったとき、誰に相談していますか」「仕事の説明で、もう少し詳しく教えてほしいところはありますか」など、具体的な質問を組み合わせることが有効です。
③ 面談で避けたい対応
面談では、次のような対応を避けましょう。
- 本人の話を途中で遮る
- 「考えすぎです」「我慢してください」と簡単に片付ける
- 国籍や文化を理由に性格や行動を決めつける
- 本人が話したくない個人的な事情を無理に聞き出す
- 本人の許可や業務上の必要性を十分に検討せず、相談内容を広く共有する
- 相談を受けたにもかかわらず、その後の対応を行わない
面談は、会社側が一方的に指導する場ではなく、本人の状況を理解し、必要な改善につなげる機会として活用しましょう。
④ 面談後の対応を記録する
面談後は、必要な範囲で内容を記録し、対応すべき事項を整理します。
面談記録に含める項目の例
- 面談日
- 面談担当者
- 本人からの相談事項
- 仕事や生活に関する課題
- 会社側が対応する事項
- 対応担当者
- 対応期限
- 次回の確認予定
記録には、業務上必要な情報を中心に記載します。
メンタルヘルスに関する詳細な情報は、慎重に取り扱い、アクセスできる担当者や利用目的を明確にすることが大切です。
5.外国人社員のメンタルヘルスに関する相談を受けた際の対応
外国人社員から精神的な不調や職場の悩みについて相談を受けた場合、担当者がどのように対応するかによって、その後の相談のしやすさが変わることがあります。
重要なのは、本人の話を否定せず、必要な支援につなげることです。
① まずは本人の話を落ち着いて聞く
本人が悩みを話し始めたら、途中で結論を出さず、何に困っているのかを丁寧に確認します。
「話してくれてありがとうございます」「一緒に対応方法を考えましょう」など、安心感につながる言葉を使うことが大切です。
一方で、担当者だけで必ず解決できると約束する必要はありません。
対応できることと、専門機関などの支援が必要なことを整理し、適切な対応を検討します。
② 問題の背景を確認する
精神的な負担がある場合、その原因が一つとは限りません。
例えば、仕事上のストレスと生活上の不安が同時に存在している場合があります。
本人の話を聞きながら、次の点を確認します。
- いつ頃から困っているのか
- 仕事と生活のどちらに関係する問題なのか
- 現在、どのような支援を必要としているのか
- 職場で緊急に対応すべき問題があるか
- 本人が相談や受診などについて、どのような希望を持っているか
必要以上に個人的な事情を聞き出すのではなく、支援に必要な範囲で確認することが重要です。
③ 必要な支援につなげる
相談内容によって、適切な対応は異なります。
| 相談内容 | 対応例 |
| 業務指示が理解できない | 指導方法の見直し、作業手順書の整備 |
| 人間関係の悩み | 本人の話を確認し、必要に応じて職場内で調整 |
| 長時間労働による負担 | 勤務記録の確認、業務量や勤務体制の見直し |
| 生活上の不安 | 生活相談窓口や自治体の支援情報を案内 |
| ハラスメントの相談 | 事実確認、本人の安全確保、必要な是正措置 |
| 精神的な不調が疑われる | 本人の状況に応じて医療機関や専門家への相談を案内 |
医療機関への相談を検討する場合は、本人の状態や希望に配慮し、必要に応じて受診方法や相談先の情報を案内します。
ただし、生命や身体に差し迫った危険が疑われる場合は、通常の面談や社内手続きよりも安全確保を優先し、緊急の医療支援につなげる必要があります。
④ 対応後も継続して状況を確認する
相談を受けて対応した後は、問題が改善しているかを確認します。
例えば、業務指示の方法を変更した場合には、本人が業務を理解しやすくなったかを確認します。
勤務状況を見直した場合も、負担が軽減されたか、ほかに困りごとが生じていないかを確認することが大切です。
相談を受けることだけでなく、相談後のフォローまで行うことが、信頼関係の構築につながります。
6.企業が知っておきたいメンタルヘルス対策と法令上の対応
外国人社員のメンタルヘルス対策を進める際には、企業が実施する一般的な健康管理と、法令に基づく義務を区別して理解することが重要です。
外国人社員であることを理由に、労働関係法令上の保護や必要な健康管理の対象から外れるわけではありません。
① 労働安全衛生法に基づく健康管理
企業は、労働安全衛生法などの関係法令に基づき、労働者の健康管理や職場の安全衛生に適切に対応する必要があります。
例えば、法令上の要件に該当する場合には、健康診断、長時間労働者への対応、ストレスチェック制度などが関係します。
ストレスチェック制度は、労働者のストレスの状況を把握し、メンタルヘルス不調の未然防止や職場環境の改善につなげるための仕組みです。
制度の対象や実施義務は、事業場の規模、適用される法令、施行時期などによって確認が必要です。
ストレスチェックを実施する場合は、検査結果の取り扱いや本人のプライバシーにも十分に配慮しなければなりません。
なお、ストレスチェックは、外国人社員の状態を一方的に評価したり、採用や配置の判断に安易に利用したりするためのものではありません。
② ハラスメント防止に関する対応
企業には、関係法令に基づき、職場におけるハラスメント防止のための措置が求められます。
外国人社員に対しても、適切な相談体制を整え、相談があった場合には必要な事実確認と対応を行うことが重要です。
また、外国人であることを理由とした差別的な言動や不当な扱いを防止するため、社内ルールや管理職への教育を見直しましょう。
③ 個人情報の適切な管理
メンタルヘルスに関する情報には、本人の健康状態など、特に慎重な取り扱いが必要な情報が含まれることがあります。
企業は、個人情報保護法などの関係法令を踏まえ、情報の利用目的、共有範囲、保管方法などを適切に管理する必要があります。
具体的には、次のような対策が考えられます。
- 面談記録の保管場所を限定する
- 閲覧できる担当者を必要な範囲に絞る
- 社内共有の目的と必要性を確認する
- 不要になった記録を適切に管理する
- 通訳者や外部支援機関と情報を共有する際の取り扱いを確認する
本人の健康状態や相談内容を、必要性を確認せずに職場内で広く共有することは避けましょう。
④ 労働条件や勤務状況を適切に管理する
外国人社員についても、賃金、労働時間、休憩、休日などの労働条件を適切に管理することが重要です。
労働条件が不明確であったり、実際の勤務状況と契約内容に相違があったりすると、本人の不安や会社への不信感につながる可能性があります。
企業は、雇用契約書や労働条件通知書の内容を分かりやすく説明し、本人が疑問を相談できる体制を整えましょう。
※法令上の義務や適用条件は、制度改正や個別の雇用状況によって異なる場合があります。実際の対応に当たっては、厚生労働省などの公的情報や専門家の助言を確認してください。
7.特定技能外国人を雇用する企業が取り組むべきこと
特定技能外国人を雇用する企業では、通常の労務管理や健康管理に加えて、在留資格制度に基づく支援についても適切に対応する必要があります。
特に、特定技能1号外国人に対しては、法令に基づく支援計画を作成し、その計画に従って必要な支援を実施することが求められます。
支援には、生活オリエンテーション、相談・苦情への対応、日本人との交流促進などが含まれます。
これらの支援は、外国人社員が日本で安定した生活を送り、職場で安心して働くための基盤となります。
ただし、特定技能制度上の義務と、企業が自主的に取り組む一般的なメンタルヘルス対策は、区別して考える必要があります。
すべてのメンタルヘルス対策が、特定技能制度上の独立した義務として定められているわけではありません。
① 入社時の生活オリエンテーションを丁寧に行う
日本で生活を始めたばかりの外国人社員は、住居、交通、医療、行政手続き、生活ルールなどについて不安を抱えることがあります。
生活オリエンテーションでは、制度上必要な説明事項を適切に伝えるとともに、本人が理解できているかを確認することが大切です。
説明するだけで終わらせず、後から質問できる相談先も案内しましょう。
② 定期的に仕事と生活の状況を確認する
外国人社員の状況は、入社直後と勤務に慣れた後では異なる場合があります。
入社直後は業務や生活環境への適応が課題となり、時間が経過すると、人間関係、将来のキャリア、家族の事情などが新たな悩みになることもあります。
そのため、一度の面談だけでなく、継続的に仕事と生活の状況を確認することが重要です。
なお、特定技能1号外国人に対する定期面談については、制度上の実施要件や頻度を最新の運用要領に照らして確認する必要があります。
③ 相談・苦情への対応を適切に行う
特定技能外国人から仕事や生活について相談があった場合は、相談内容を確認し、必要な対応につなげます。
例えば、労働条件に関する問題であれば企業の労務担当者と連携し、生活上の問題であれば適切な相談窓口を案内するなど、相談内容に応じて対応します。
メンタルヘルスに関する相談の場合も、本人のプライバシーに配慮しながら、必要な支援につなげることが重要です。
④ 登録支援機関と適切に連携する
企業が登録支援機関に支援を委託している場合は、企業と登録支援機関がそれぞれの役割を理解し、必要な情報を適切に共有することが重要です。
例えば、登録支援機関が生活上の困りごとを把握した場合、企業側の対応が必要な事項については、適切な方法で連携することが考えられます。
一方で、本人の健康情報や個人的な相談内容を共有する際には、情報の必要性、共有目的、本人のプライバシーなどを慎重に検討する必要があります。
登録支援機関は、医療機関や専門家に代わって診断を行う立場ではありません。
専門的な対応が必要と考えられる場合は、適切な相談先につなぐことが大切です。

8.登録支援機関が外国人社員のメンタルヘルス支援で意識したいポイント
登録支援機関は、特定技能外国人の日本での生活や就労を支援する立場として、仕事や生活上の困りごとを把握する機会があります。
そのため、日常的な相談や面談を通じて、外国人社員が抱えている問題を早期に把握し、適切な支援につなげることが重要です。
ただし、登録支援機関の役割は、医療的な判断や治療を行うことではありません。支援の範囲を理解したうえで、必要に応じて企業や専門機関と連携することが求められます。
① 相談内容を整理し、適切な担当者につなぐ
外国人社員から相談を受けた場合は、内容に応じて対応先を整理します。
| 相談内容 | 主な連携先・対応例 |
| 業務指示や仕事の悩み | 受入れ企業の現場責任者、人事担当者 |
| 労働条件に関する問題 | 企業の労務担当者、必要に応じて労働相談窓口 |
| 生活上の困りごと | 受入れ企業、自治体の相談窓口など |
| ハラスメントに関する相談 | 適切な相談担当者、必要に応じて外部相談窓口 |
| 精神的な不調が疑われる場合 | 本人の状況に応じて医療機関や専門家 |
相談内容によっては、企業内だけで対応することが適切でない場合もあります。
本人の安全やプライバシーに配慮しながら、必要な支援につなげることが大切です。
② 企業に対して具体的な改善策を提案する
登録支援機関が面談や相談を通じて課題を把握した場合、必要に応じて企業に改善を提案することも考えられます。
例えば、次のような内容です。
- 業務指示をより分かりやすくする
- 指導担当者を明確にする
- 相談窓口を複数設ける
- 生活上の相談方法を再度案内する
- 職場内のコミュニケーションを改善する
- 必要に応じて勤務状況を確認する
ただし、本人の相談内容を企業に共有する場合は、業務上の必要性や情報の取り扱いを慎重に検討する必要があります。
本人の信頼を損なわないよう、共有する情報の範囲や方法にも配慮しましょう。
③ 支援記録を適切に管理する
登録支援機関では、制度上必要な支援の実施状況を記録し、適切に管理することが重要です。
記録を作成する際は、実施した支援内容や確認事項を客観的に記載し、推測や主観的な評価を必要以上に加えないようにします。
また、メンタルヘルスに関する詳細な情報は、制度上必要な支援記録と区別し、必要性を踏まえて適切に管理することが望まれます。
記録を残す目的は、本人を評価することではなく、必要な支援を継続し、適切な対応につなげることです。
9.外国人社員のメンタルヘルス対策を進めるための実務チェックリスト
外国人社員のメンタルヘルス対策を継続的に進めるためには、企業内で実施状況を確認できる仕組みを整えることが重要です。
以下のチェックリストを活用し、自社の取り組みを確認してみましょう。
相談体制
- □ 相談担当者が明確になっている
- □ 外国人社員に相談先と相談方法を説明している
- □ 必要に応じて母国語で相談できる方法を検討している
- □ 直属の上司以外にも相談できる選択肢がある
- □ 相談したことを理由に不利益な扱いをしない方針を周知している
面談と継続的な支援
- □ 定期的に仕事や生活の状況を確認している
- □ 面談で本人が話しやすい環境を整えている
- □ 前回の面談で確認した課題の対応状況を確認している
- □ 必要な面談記録を適切に管理している
- □ 問題が確認された場合の対応担当者が明確になっている
職場環境と労務管理
- □ 業務指示を分かりやすく伝えている
- □ 長時間労働や休息不足がないか確認している
- □ ハラスメント防止に関する方針を周知している
- □ 管理職や指導担当者に適切な指導方法を共有している
- □ 外国人社員が質問しやすい雰囲気を整えている
専門機関との連携
- □ 必要に応じて医療機関や専門家につなぐ方法を確認している
- □ 地域の相談窓口などの情報を把握している
- □ 緊急時の対応方法を確認している
- □ 企業と登録支援機関の役割分担が明確になっている
- □ 個人情報の共有方法や管理ルールを確認している
チェックが付かない項目がある場合は、すべてを一度に改善しようとするのではなく、相談窓口の明確化や面談方法の見直しなど、取り組みやすい項目から始めるとよいでしょう。
また、チェックリストを作成しただけで終わらせず、定期的に実施状況を確認し、必要に応じて内容を見直すことが大切です。
10.外国人社員のメンタルヘルス対策でよくある失敗と改善方法
企業がメンタルヘルス対策に取り組んでいても、運用方法によっては十分な効果が得られない場合があります。
ここでは、実務で注意したい例を紹介します。
① 面談を実施するだけで、その後の対応を行わない
面談で悩みを聞いても、具体的な対応につながらなければ、本人が相談する意味を感じられなくなる可能性があります。
改善方法: 面談後に対応事項、担当者、期限を整理し、改善状況を確認する仕組みを設けましょう。
② 外国人社員本人だけに問題の解決を求める
日本語の理解不足や仕事上のミスがあった場合、本人の努力だけを求めると、根本的な問題が解決しないことがあります。
改善方法: 本人の習得状況に加えて、指示方法、教育体制、業務量、職場環境なども確認しましょう。
③ 相談内容を職場内で広く共有する
本人の相談内容が必要以上に共有されると、プライバシーへの不安から、相談をためらうようになる可能性があります。
改善方法: 情報共有の目的と必要性を確認し、共有する範囲を適切に限定しましょう。
④ 問題が起きてから初めて支援を始める
精神的な負担が大きくなってから対応を始めると、職場環境の改善や専門的な支援につなげるまでに時間がかかることがあります。
改善方法: 日常的なコミュニケーション、定期面談、勤務状況の確認などを組み合わせ、早期に相談できる環境を整えましょう。
⑤ 国籍や文化だけで本人の状態を判断する
外国人社員の行動を、国籍や文化の違いだけで説明しようとすると、実際の問題を見落とす可能性があります。
改善方法: 本人の話を丁寧に聞き、個人ごとの状況を確認したうえで、必要な対応を検討しましょう。
11.企業が継続的に取り組むための実施計画
メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、担当者個人の努力に頼るのではなく、会社として取り組みを継続できる仕組みを整えることが重要です。
例えば、次のような流れで進めることができます。
| 段階 | 実施内容 | 目的 |
| 第1段階 | 相談窓口と担当者を明確にする | 困ったときに相談できる体制を整える |
| 第2段階 | 面談方法と記録方法を整備する | 仕事や生活の課題を把握する |
| 第3段階 | 職場環境や勤務状況を確認する | ストレスにつながる要因を見直す |
| 第4段階 | 管理職や指導担当者への情報共有を行う | 適切な指導とコミュニケーションを促進する |
| 第5段階 | 必要な改善策を実施する | 把握した課題の解決を図る |
| 第6段階 | 改善状況を確認する | 対策が継続的に機能しているか確認する |
実施計画を作成する際は、会社の規模、外国人社員の人数、業種、勤務形態などに応じて、無理なく継続できる方法を選びましょう。
また、相談件数が少ないことだけを理由に、職場のメンタルヘルスに問題がないと判断することは適切ではありません。
相談しにくい環境が原因で、悩みが表面化していない可能性もあるためです。
相談のしやすさ、面談後の対応、職場環境の改善状況など、複数の観点から取り組みを評価することが重要です。
12.参考となる公的機関・相談窓口
外国人社員のメンタルヘルスや労働環境に関する問題に対応する際は、企業内の相談窓口だけでなく、公的機関や専門機関の情報も活用できます。
以下は、企業担当者が確認しておきたい主な情報源です。
① 厚生労働省
労働者のメンタルヘルス対策、職場の安全衛生、ストレスチェック制度、ハラスメント防止などに関する情報を確認できます。
公式サイト:
https://www.mhlw.go.jp/
② 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
働く人や事業者向けに、メンタルヘルス対策、ストレスへの対処、職場での相談などに関する情報を提供しています。
公式サイト:
https://kokoro.mhlw.go.jp/
企業担当者が社内のメンタルヘルス対策を検討する際にも、参考資料として活用できます。
③ 外国人技能実習機構(OTIT)
技能実習制度に関する情報や相談支援を確認できます。
公式サイト:
https://www.otit.go.jp/
なお、技能実習制度と特定技能制度は異なる制度です。特定技能外国人に関する手続きや支援義務については、出入国在留管理庁の情報を確認してください。
④ 出入国在留管理庁
特定技能制度、支援計画、登録支援機関などに関する制度情報を確認できます。
公式サイト:
https://www.moj.go.jp/isa/
特定技能外国人を雇用する企業や登録支援機関は、制度上の義務や最新の運用要領を確認し、適切な支援を実施することが重要です。
※相談窓口の利用条件や対応言語、受付時間などは変更される場合があります。実際に利用する際は、各機関の公式サイトで最新情報をご確認ください。
まとめ|外国人社員が安心して働ける職場づくりを進めよう
外国人社員のメンタルヘルスに配慮した職場づくりは、本人の健康を守るだけでなく、職場環境の改善や人材の定着にもつながる重要な取り組みです。
外国人社員は、日本語でのコミュニケーション、文化や生活習慣の違い、家族と離れて暮らす不安、職場の人間関係など、さまざまなストレスを抱えることがあります。
企業は、こうした問題を本人だけの責任にするのではなく、職場環境や支援体制を見直し、一人ひとりの状況に応じた対応を行う必要があります。
特に、重要なポイントは次のとおりです。
- 定期的な面談: 仕事や生活の困りごとを早期に把握する
- 相談体制の整備: 外国人社員が安心して相談できる環境をつくる
- 分かりやすい業務指示: 言語の違いによる誤解や不安を減らす
- 労働環境の改善: 勤務時間、業務量、休息、指導方法などを見直す
- ハラスメント防止: 国籍や言語能力などを理由とする不当な扱いを防ぐ
- 専門機関との連携: 必要に応じて医療機関や公的相談窓口につなぐ
- 継続的なフォロー: 相談後も改善状況を確認する
また、特定技能外国人を雇用する企業では、制度上必要な支援を適切に実施するとともに、企業と登録支援機関が役割を理解し、必要に応じて連携することが大切です。
メンタルヘルス対策は、一度の面談や研修だけで完了するものではありません。日常的なコミュニケーションと継続的な職場改善を通じて、安心して働ける環境を整えていきましょう。
外国人社員が安心して働き続けられる職場づくりは、人材の定着を促進し、企業の持続的な成長を支える重要な取り組みです。
外国人社員の雇用や支援体制の整備について課題を感じている企業は、自社の相談体制や面談方法、職場環境を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。


