外国人ドライバーを採用する企業にとって、交通事故が発生した場合の対応を事前に決めておくことは非常に重要です。
事故は、外国人ドライバーだけでなく、日本人ドライバーにも起こる可能性があります。
特に外国人ドライバーを受け入れる場合は、日本の交通ルールだけでなく、事故発生時の連絡方法、会社への報告、日本語でのコミュニケーションなどについても、あらかじめ分かりやすく説明しておく必要があります。
2024年から自動車運送業分野でも特定技能外国人の受入れが可能となり、トラック・バス・タクシーなどの分野で外国人材の受入れが進められています。国土交通省の制度資料では、乗務開始までに運転免許、特定技能評価試験、日本語能力、安全・法令・接遇・地理などに関する研修が関係しています。
そのため、外国人ドライバーを採用する企業は、「事故が起きないように教育する」だけではなく、「万が一事故が起きた場合に、誰が何をするのか」まで準備しておくことが大切です。

1.外国人ドライバーを採用する前に、事故対応まで考える
外国人ドライバーを採用するとき、多くの企業は免許や運転経験、技能、日本語能力などを確認します。
しかし、採用前にもう一つ確認しておきたいのが、
「交通事故が起きた場合の対応方法を本人が理解できるか」
という点です。
例えば、事故が起きたときに、
- どこへ連絡するのか
- 会社へいつ報告するのか
- 警察への対応はどうするのか
- 救急車が必要な場合はどうするのか
- 保険会社への連絡は誰がするのか
- 事故現場で何をしてはいけないのか
などを事前に説明しておく必要があります。
事故が起きてから初めて説明するのではなく、入社前・入社時の段階からルールを共有しておくことが重要です。
2.交通事故が発生したら、まず何をする?
交通事故が発生した場合、最初に行うべきことは安全確保と負傷者の救護です。
道路交通法では、交通事故があった場合、運転者等は直ちに運転を停止し、負傷者を救護するとともに、道路上の危険を防止するために必要な措置を講じることが定められています。また、警察への報告も必要です。
会社としても、ドライバーに次の流れを事前に教育しておきましょう。
事故発生時の基本的な流れ
① 車両を停止する
事故が発生したら、まず安全な場所で車両を停止します。
② 負傷者を確認する
自分、同乗者、相手方などにけががないか確認します。
③ 必要な救護を行う
負傷者がいる場合は、必要な救護措置を行います。
④ 二次事故を防止する
周囲の交通状況を確認し、後続車などによる二次事故を防ぐための措置を行います。
⑤ 警察へ連絡する
事故の状況に応じて警察へ連絡します。
⑥ 会社へ報告する
会社が定めた事故発生時の連絡先へ連絡します。

3.会社への報告ルールを明確にする
事故が発生したときに会社側が困るのが、
「ドライバーから必要な情報が届かない」
というケースです。
そのため、採用前または入社時に、事故発生時の報告項目を決めておきましょう。
例えば、
- 事故発生日時
- 事故発生場所
- 運転していた車両
- 相手車両の有無
- 負傷者の有無
- 車両の損傷状況
- 警察への連絡状況
- 救急車の要請状況
- 現在の現場状況
- ドライバー本人の状態
などです。
会社側が必要な情報をチェックリスト化しておけば、緊急時にも確認しやすくなります。
4.事故発生時の「会社側の担当者」を決めておく
外国人ドライバー本人だけに事故対応を任せるのではなく、会社側にも担当者を決めておくことが重要です。
例えば、
事故対応責任者
事故発生時の全体的な対応を行う。
運行管理担当者
運行状況やドライバーの勤務状況などを確認する。
車両管理担当者
車両の損傷や修理などについて対応する。
保険担当者
加入している保険会社への連絡・必要書類などを確認する。
外国人支援・通訳担当者
日本語での意思疎通にサポートが必要な場合に対応する。
というように役割を整理できます。
事業用自動車については、事故発生時の報告や記録に関する制度があります。国土交通省も事故報告制度や事故報告書の様式を案内しています。
5.すべての交通事故が同じ対応になるわけではない
会社が注意したいのは、
「事故が起きたら、すべて同じ対応をすればいい」わけではない
という点です。
事故の内容によって、必要となる対応や報告が異なる場合があります。
例えば、
- 人身事故
- 物損事故
- 単独事故
- 他車両との事故
- 運転中の車両故障
- 荷物の落下・破損
- 運転者の体調不良に関連する事故
などがあります。
特に事業用自動車を使用する運送事業者については、法令に基づく事故報告制度があるため、会社の事業形態に応じて必要な報告義務を確認しておく必要があります。
6.外国人ドライバーには「事故時の日本語」も教える
事故発生時は、通常の業務よりも緊張した状態になります。
そのため、難しい日本語を使えることよりも、緊急時に必要な簡単な日本語を理解していることが重要です。
例えば、以下の表現を事前に練習しておくとよいでしょう。
| 日本語 | 意味 |
| 交通事故です。 | 交通事故が発生しました |
| けが人がいます。 | 負傷者がいます |
| けが人はいません。 | 負傷者はいません |
| 救急車を呼んでください。 | 救急車を要請してください |
| 警察に連絡してください。 | 警察へ連絡してください |
| 事故の場所は〇〇です。 | 事故現場の場所 |
| 相手の車があります。 | 相手方車両があります |
| 会社に連絡します。 | 会社へ報告します |
| 車が動きません。 | 車両が走行できません |
| 道路をふさいでいます。 | 交通への影響があります |
こうした表現をカードやスマートフォンで確認できるようにしておく方法もあります。

7.「運転中にしてはいけないこと」も採用時から教育する
事故対応だけでなく、事故を防ぐためのルールも重要です。
特に会社として、
- 運転中のスマートフォン使用
- 無理な運転
- 速度超過
- 疲労・眠気がある状態での運転
- 飲酒運転
- 安全確認を怠ること
- 会社が定めた運行ルールに反すること
などについて、明確なルールを設定しましょう。
警察庁も、運転中の携帯電話等の使用について、その危険性を周知しています。
外国人ドライバーには、「やってはいけない」という説明だけではなく、なぜ危険なのかまで分かりやすく説明することが重要です。

8.日本の交通ルールを「知っている」だけではなく「実際にできる」か確認する
外国人ドライバーを受け入れる場合、日本の交通ルールを理解しているか確認することも重要です。
例えば、
- 信号のルール
- 一時停止
- 徐行
- 横断歩道
- 右左折
- 車間距離
- 高速道路
- 駐車・停車
- 道路標識
- 雪道・雨天時の運転
- 夜間運転
などがあります。
国土交通省の自動車運送業分野の制度資料でも、乗務開始までの過程に法令・接遇・地理・安全などに関する研修や、日本語研修が示されています。
9.外国人ドライバーには「日本特有の道路環境」も説明する
海外で運転経験があっても、日本の道路環境が同じとは限りません。
特に、
狭い道路
住宅地などには、車両1台が通るのが難しい狭い道路があります。
自転車・歩行者
住宅地や学校周辺では、歩行者や自転車への注意が必要です。
雪・凍結
地域によっては冬季の積雪・路面凍結があります。
雨天時
雨の日は視界や路面状況が変わります。
日本独特の道路標識
海外とは異なる標識や道路表示があります。
そのため、採用後の研修では座学だけでなく、実際の業務地域に合わせた安全教育も検討するとよいでしょう。

10.事故後は「責任追及」だけで終わらせない
事故が発生した場合、会社として重要なのは、
「誰が悪かったのか」だけを確認して終わらせないこと
です。
事故後には、
- なぜ事故が起きたのか
- 運転者にどのような認識があったのか
- 道路状況はどうだったか
- 車両に問題はなかったか
- 運転時間や休憩は適切だったか
- 教育内容に不足がなかったか
- 会社の運行管理に問題がなかったか
などを確認し、再発防止につなげることが重要です。
国土交通省が公開している自動車運送事業の事故データにも、事故の状況だけでなく、原因や再発防止対策などの情報が含まれています。
11.「ヒヤリ・ハット」も会社で共有する
事故にならなかったから問題がない、というわけではありません。
例えば、
「急ブレーキをかけた」
「歩行者に気づくのが遅れた」
「狭い道路で対向車と接触しそうになった」
「バックするときに障害物に気づかなかった」
などの経験も、安全管理に役立つ情報です。
このような「ヒヤリ・ハット」をドライバーから報告してもらい、会社全体で共有する仕組みを作ることもできます。
12.外国人ドライバー向け「事故対応マニュアル」を作る
会社では、外国人ドライバーがすぐ確認できる簡単なマニュアルを準備しておくと便利です。
事故発生時チェックリスト
□ 1.車を安全に停止
□ 2.負傷者を確認
□ 3.必要な救護
□ 4.二次事故を防止
□ 5.警察へ連絡
□ 6.会社へ連絡
□ 7.必要に応じて保険会社へ連絡
□ 8.事故の状況を記録
□ 9.会社の指示を確認
このようなチェックリストを車内で確認できる形にしておくことも考えられます。

13.採用前に会社が準備しておきたい「7つのルール」
外国人ドライバーを採用する企業は、最低限、次の項目を整理しておきましょう。
① 事故発生時の連絡先
誰に電話するのかを決める。
② 事故発生時の報告方法
電話・チャット・専用フォームなど、会社のルールを決める。
③ 緊急時の対応手順
事故発生から会社への報告までの流れを作る。
④ 保険対応の担当者
保険会社との連絡を誰が担当するのか決める。
⑤ 車両管理
事故後の車両確認・修理・代替車両などの対応方法を決める。
⑥ 外国人スタッフへの通訳支援
必要な場合に誰が日本語でサポートするのか決める。
⑦ 再発防止
事故後にどのような教育・改善を行うか決めておく。

14.会社が準備しておきたい事故対応情報
ドライバーがすぐ確認できるよう、次の情報をまとめておくと便利です。
会社情報
- 会社名
- 所在地
- 電話番号
- 事故対応担当者
緊急連絡先
- 警察
- 救急
- 会社担当者
- 保険会社
- 車両管理担当者
車両情報
- 車両番号
- 車種
- 保険情報
- 車両管理担当者
ドライバー情報
- 氏名
- 会社の連絡先
- 必要な資格・免許情報
※実際に準備する情報や保管方法は、会社の業務形態や個人情報の取扱いルールに合わせて設定しましょう。

15.外国人ドライバーの「日本語能力」だけで判断しない
外国人ドライバーの採用では、日本語能力も重要ですが、
「日本語が上手だから安全」
「日本語が苦手だから危険」
と単純に判断することはできません。
重要なのは、業務に必要な安全ルールや事故時の対応方法を本人が理解し、実際の業務で適切に行動できるよう教育・確認することです。
そのため、会社側も「日本語が分からないから本人に任せる」のではなく、図・写真・動画・母語・やさしい日本語などを組み合わせて説明することを検討しましょう。
16.特定技能の外国人ドライバーを採用する場合は制度上の要件も確認
自動車運送業分野では、特定技能1号による外国人材の受入れが可能です。
国土交通省の資料によると、トラック・バス・タクシーでは必要な運転免許や特定技能評価試験、日本語能力などの要件が異なります。
2026年1月23日付の制度資料では、例えばトラックは第一種運転免許と特定技能評価試験、日本語能力A2.2相当以上などが示されています。一方、バス・タクシーについては第二種運転免許などが関係し、日本語能力の要件も異なります。
したがって、採用する職種が、
トラックなのか、バスなのか、タクシーなのか
を明確にしたうえで、最新の制度要件を確認する必要があります。
また、自動車運送業分野には特定技能協議会などの制度上の手続きもあります。
17.会社が作っておくと便利な「事故対応フロー」
実際の会社運用では、次のようなフローを作っておくと分かりやすくなります。
交通事故発生
↓
安全確保・負傷者確認
↓
必要な救護・警察への対応
↓
会社へ連絡
↓
会社担当者が事故状況を確認
↓
保険会社・必要な関係先へ連絡
↓
車両・勤務状況などを確認
↓
必要な事故報告・記録
↓
事故原因を確認
↓
再発防止策を実施
↓
ドライバーへの再教育
この流れを、外国人ドライバー本人にも分かるように図にしておくと便利です。
18.採用前チェックリスト
最後に、外国人ドライバーを採用する前に会社が確認しておきたい項目をまとめます。
採用・資格
□ 必要な運転免許を確認した
□ 必要な資格・試験を確認した
□ 在留資格・制度上の要件を確認した
□ 運転経験を確認した
安全教育
□ 日本の交通ルールを説明した
□ 会社の安全ルールを説明した
□ 運転中のスマートフォン使用などについて説明した
□ 地域特有の道路環境を説明した
□ 必要な日本語を教育した
事故対応
□ 事故発生時の連絡先を伝えた
□ 会社への報告方法を説明した
□ 事故対応マニュアルを渡した
□ 保険対応の流れを説明した
□ 緊急時の通訳・支援体制を確認した
会社側
□ 事故対応担当者を決めた
□ 車両管理担当者を決めた
□ 保険会社の連絡先を整理した
□ 事故記録の方法を決めた
□ 再発防止の方法を決めた

まとめ|外国人ドライバーの採用は「事故が起きた後」まで準備する
外国人ドライバーを採用する企業にとって、重要なのは「事故を起こさないように教育すること」だけではありません。
万が一事故が発生した場合に、
誰が対応するのか
どこへ連絡するのか
何を報告するのか
どのように外国人ドライバーをサポートするのか
を事前に決めておくことが重要です。
特に外国人ドライバーの場合は、日本の交通ルールや会社の安全ルールだけでなく、事故発生時に必要な日本語や報告方法についても、本人が理解できる形で教育することが大切です。
外国人材の採用を成功させるためには、採用・在留手続きだけではなく、入社後の安全教育、事故対応、定期的なフォローまで含めた受入れ体制を整えておくことが重要です。
外国人ドライバーを採用する前に、自社の事故対応ルールを一度見直してみましょう。



