はじめに
特定技能外国人の採用を検討する企業にとって、2026年は大きな転換点となっています。
2026年1月23日、政府は特定技能制度と育成就労制度の分野別運用方針を閣議決定し、特定技能1号の新しい受け入れ見込数を設定しました。
今回の見直しでは、物流倉庫、リネンサプライ、資源循環の3分野が新たに加わり、特定技能1号の対象は合計19分野となりました。一方、既存分野では介護、外食業、農業などの受け入れ見込数が従来より引き下げられています。
新しい特定技能1号の受け入れ見込数は、全19分野の合計で80万5,700人です。これは原則として2029年3月末までの分野別上限として運用されます。(法務省)
ただし、受け入れ枠に余裕があるからといって、必ずしも採用が簡単とは限りません。
実際の採用難易度は、
- 制度上の受け入れ枠
- 現在の在留者数
- 技能試験の実施状況
- 日本語要件
- 国内人材の転職競争
- 海外から採用できる人材の数
- 業界独自の許可や受け入れ要件
などによって変わります。
本記事では、2026年3月末時点の分野別在留者数と受け入れ見込数を基に、企業側から見た採用難易度を解説します。

特定技能の「受け入れ見込数」とは
特定技能制度では、分野ごとに一定期間の受け入れ見込数が設定されています。
これは単なる目標人数ではなく、大きな経済情勢の変化がない限り、各分野に在留する特定技能1号外国人の上限として運用される数字です。
受け入れ見込数に近づいた場合には、その分野について海外からの新規入国に必要な在留資格認定証明書の交付を一時的に停止するなど、受け入れを調整する措置が取られる可能性があります。(法務省)
したがって、企業は「制度上、採用できる分野か」だけでなく、その分野の枠がどの程度埋まっているかも確認する必要があります。
2026年に受け入れ枠はどう変わったのか
2024年3月に設定された従来の受け入れ見込数は、16分野合計で82万人でした。
2026年1月の見直しでは、対象分野が19分野へ増えた一方、特定技能1号全体の受け入れ見込数は80万5,700人となりました。
主な変更は次のとおりです。
受け入れ枠が縮小した主な分野
- 介護:13万5,000人から12万6,900人
- ビルクリーニング:3万7,000人から3万2,200人
- 建設:8万人から7万6,000人
- 造船・舶用工業:3万6,000人から2万3,400人
- 自動車整備:1万人から9,400人
- 宿泊:2万3,000人から1万4,800人
- 自動車運送業:2万4,500人から2万2,100人
- 農業:7万8,000人から7万3,300人
- 漁業:1万7,000人から1万4,800人
- 外食業:5万3,000人から5万人
- 林業:1,000人から900人
- 木材産業:5,000人から4,500人
- 飲食料品製造業:13万9,000人から13万3,500人
受け入れ枠が拡大した主な分野
- 工業製品製造業:17万3,300人から19万9,500人
- 航空:4,400人から4,900人
鉄道は3,800人から2,900人となりました。
また、新規分野として、
- リネンサプライ:4,300人
- 物流倉庫:1万1,400人
- 資源循環:900人
が新たに設定されています。(法務省)
2026年3月末時点の特定技能1号在留者数

出入国在留管理庁が2026年7月3日に公表した速報値によると、2026年3月末時点の特定技能1号在留者数は、全分野合計で40万4,527人です。
新しい受け入れ見込数80万5,700人に対する全体の充足率は、約50.2%となっています。(法務省)
全体ではまだ半分程度ですが、分野によって状況は大きく異なります。
分野別の在留者数・受け入れ枠・充足率
2026年3月末時点の主な数字は次のとおりです。
外食業
- 受け入れ見込数:5万人
- 在留者数:4万7,714人
- 充足率:95.4%
- 直近1年間の増加数:1万6,498人
全分野の中で最も受け入れ上限に近い状況です。(法務省)
飲食料品製造業
- 受け入れ見込数:13万3,500人
- 在留者数:9万6,367人
- 充足率:72.2%
- 直近1年間の増加数:2万509人
在留者数が最も多い分野で、枠の消化も進んでいます。(法務省)
建設
- 受け入れ見込数:7万6,000人
- 在留者数:5万1,055人
- 充足率:67.2%
- 直近1年間の増加数:9,957人
枠だけを見ると残りはありますが、受け入れ企業には建設分野独自の計画認定や業界団体への加入などが求められます。(法務省)
介護
- 受け入れ見込数:12万6,900人
- 在留者数:7万4,745人
- 充足率:58.9%
- 直近1年間の増加数:2万6,332人
枠には余裕がありますが、直近1年間の増加数は全分野で最も多く、採用競争が強まっています。(法務省)
農業
- 受け入れ見込数:7万3,300人
- 在留者数:3万9,950人
- 充足率:54.5%
- 直近1年間の増加数:9,438人
直接雇用に加え、一定の要件を満たした派遣形態で受け入れられる点が特徴です。(法務省)
航空
- 受け入れ見込数:4,900人
- 在留者数:2,577人
- 充足率:52.6%
- 直近1年間の増加数:937人
割合としては半分を超えていますが、在留者の絶対数はまだ小さい分野です。(法務省)
自動車整備
- 受け入れ見込数:9,400人
- 在留者数:4,925人
- 充足率:52.4%
- 直近1年間の増加数:1,646人
整備工場側の認証要件や、現場で必要な専門用語への対応が採用上の課題になります。(法務省)
造船・舶用工業
- 受け入れ見込数:2万3,400人
- 在留者数:1万1,471人
- 充足率:49.0%
- 直近1年間の増加数:1,514人
従来より受け入れ枠が大幅に縮小されたため、在留者数の増加には注意が必要です。(法務省)
漁業
- 受け入れ見込数:1万4,800人
- 在留者数:4,842人
- 充足率:32.7%
- 直近1年間の増加数:1,232人
数字上の枠には余裕がありますが、就業場所や生活環境、季節性などが人材確保に影響します。(法務省)
工業製品製造業
- 受け入れ見込数:19万9,500人
- 在留者数:5万9,038人
- 充足率:29.6%
- 直近1年間の増加数:1万2,962人
受け入れ見込数が全分野で最大となり、対象業務区分も拡大しています。枠には比較的余裕がありますが、業務が対象となる製造工程に該当するかの確認が必要です。(法務省)
ビルクリーニング
- 受け入れ見込数:3万2,200人
- 在留者数:9,202人
- 充足率:28.6%
- 直近1年間の増加数:2,560人
枠には余裕がありますが、現場が複数に分かれる場合の指揮命令や雇用管理に注意が必要です。(法務省)
宿泊
- 受け入れ見込数:1万4,800人
- 在留者数:2,207人
- 充足率:14.9%
- 直近1年間の増加数:1,365人
枠の余裕は大きい一方、接客やフロント業務では、試験基準を満たすだけでなく高い会話力が求められる傾向があります。(法務省)
鉄道
- 受け入れ見込数:2,900人
- 在留者数:59人
- 充足率:2.0%
- 直近1年間の増加数:49人
制度開始から日が浅く、在留者はまだ少数です。業務区分によって必要な日本語水準や技能要件が異なります。(法務省)
自動車運送業
- 受け入れ見込数:2万2,100人
- 在留者数:333人
- 充足率:1.5%
- 直近1年間の増加数:332人
枠には非常に大きな余裕がありますが、日本の運転免許取得、外免切替、技能試験、日本語要件、新任運転者研修などが必要になるため、実際の採用難易度は高い分野です。(法務省)
林業
- 受け入れ見込数:900人
- 在留者数:8人
- 充足率:0.9%
制度開始直後のため在留者はまだ少数です。(法務省)
木材産業
- 受け入れ見込数:4,500人
- 在留者数:34人
- 充足率:0.8%
こちらも新しい分野で、試験や採用ルートの整備状況が採用速度を左右します。(法務省)
物流倉庫・リネンサプライ・資源循環
2026年に新たに追加された3分野です。
- 物流倉庫:1万1,400人
- リネンサプライ:4,300人
- 資源循環:900人
2026年3月末時点では、これらの分野の特定技能1号在留者数はまだ計上されていません。制度上の受け入れ枠はありますが、評価試験、協議会、業界独自要件などが整備されてから本格的な受け入れが進むことになります。(法務省)

分野別の採用難易度をどう見るべきか

以下の採用難易度は、国が公表する公式評価ではありません。
受け入れ枠の充足率、直近の増加数、試験・免許要件、海外採用の状況、国内転職者の競争などを踏まえた、企業側から見た実務上の目安です。
採用難易度「非常に高い」
外食業
外食業は受け入れ枠の95.4%まで達しており、最も注意が必要な分野です。
海外からの新規採用については受け入れ上限を踏まえた交付停止措置が取られており、企業は国内に在留する特定技能外国人を中心に採用せざるを得ない状況となっています。(法務省)
その結果、外国人本人が複数の飲食店を比較し、
- 給与
- 社宅費
- 勤務地
- 夜勤の有無
- 休日
- 昇給
- 転居費用
- 支援内容
などを基準に転職先を選ぶ傾向が強まっています。
外食業は、現在最も「企業が外国人から選ばれる」分野の一つです。
採用難易度「高い」
飲食料品製造業
在留者数が9万6,000人を超え、充足率は72.2%です。
枠はまだ残っていますが、年間2万人を超えるペースで増加しています。現在の増加傾向が続けば、将来的に受け入れ上限へ近づく可能性があります。(法務省)
食品工場では夜勤、温度環境、立ち作業、勤務地の不便さなどから、人材の定着が課題になりやすい点にも注意が必要です。
建設
充足率は67.2%で、枠の消化が進んでいます。
さらに、建設分野では一般的な特定技能の要件に加えて、
- 建設特定技能受入計画の認定
- 建設キャリアアップシステムへの登録
- 適正就労監理機関への負担金
- 業界団体への加入
など、独自の手続きがあります。
そのため、人材を見つけても受け入れ開始までに時間がかかる可能性があります。
介護
介護は枠の充足率だけを見ると58.9%ですが、直近1年間で2万6,332人増加しています。これは全分野で最大の増加数です。(法務省)
介護人材を必要とする施設が全国に多く、国内の特定技能外国人に対する求人も非常に多いため、給与や住居だけでなく、職場の人間関係や夜勤開始時期、日本語・介護福祉士試験の支援などが採用と定着を左右します。
採用難易度「中程度」
農業
充足率は54.5%で、受け入れ枠には一定の余裕があります。
一方、農村部では住居、交通手段、買い物環境の整備が必要です。季節ごとの業務量や繁忙期の労働時間について、採用前に丁寧に説明することも重要です。
自動車整備
受け入れ枠には余裕がありますが、整備に関する専門用語、安全教育、工具の名称などを日本語で理解する必要があります。
資格や実務経験を持つ人材は限られるため、採用後の教育を前提に考えた方がよい分野です。
造船・舶用工業
技能実習からの移行人材を採用できる場合は比較的進めやすい一方、未経験者を海外から採用する場合は、対象業務に合った試験合格者を確保する必要があります。
勤務地が特定地域に集中していることも、人材確保に影響します。
航空
受け入れ人数自体が少なく、空港グランドハンドリングや航空機整備など、業務ごとの専門性が高い分野です。
空港の制限区域で働くための手続きや、シフト勤務に対応できる人材の確保も必要です。
枠には余裕があるが、採用準備が難しい分野
自動車運送業
受け入れ枠の充足率は1.5%ですが、採用が簡単という意味ではありません。
外国人本人には、
- 分野別技能試験
- 日本の運転免許
- 外国免許切替または国内での免許取得
- トラック、バス、タクシーごとの日本語要件
- 新任運転者研修
などが求められます。(関西技術協力センター)
人材募集から実際に運転業務を開始するまで、長い準備期間が必要になることがあります。
鉄道
在留者数はまだ59人ですが、運輸係員など一部業務では、より高い日本語能力が求められます。
安全に直結する業務のため、試験合格後も社内教育に時間がかかると考えられます。
宿泊
枠の充足率は14.9%と低いものの、接客業務では会話力や敬語、クレーム対応が必要です。
試験に合格している人材が、必ずしもすぐにホテルの接客現場で活躍できるとは限りません。
新規分野は「枠が空いている」だけでは判断できない
物流倉庫、リネンサプライ、資源循環は、新たな採用先として注目されています。
しかし、新規分野では、
- 評価試験の開始時期
- 海外試験の実施国
- 分野別協議会の受付
- 受け入れ企業の上乗せ要件
- 登録支援機関の対応状況
- 試験合格者の供給数
が採用のスピードを左右します。
受け入れ枠がほぼ空いていても、制度開始直後は採用可能な人材自体が少ないため、短期間で大人数を採用できるとは限りません。
特に物流倉庫分野では、登録倉庫業者などの事業者要件、直接雇用、WMS等の活用、協議会への加入など、企業側にも複数の条件が求められます。
企業が採用前に確認すべき5つのこと

1.最新の受け入れ状況を確認する
受け入れ枠や在留者数は変化します。
数年前の記事や古い営業資料だけで判断せず、出入国在留管理庁や各分野の所管省庁が公表する最新情報を確認する必要があります。
2.海外採用と国内採用を分けて考える
同じ特定技能でも、海外から呼び寄せる場合と、日本国内ですでに働いている人を採用する場合では手続きが異なります。
海外採用では試験日程、在留資格認定証明書、送り出し国の手続きなどが必要です。
国内採用では比較的早く入社できる可能性がありますが、転職希望者の獲得競争が起きやすくなります。
3.「試験合格者がいるか」を確認する
枠に余裕があっても、対象分野の技能試験が実施されていなかったり、合格者が少なかったりすれば、採用は進みません。
海外採用を行う場合は、自社が採用したい国で、
- 技能試験が行われているか
- 日本語試験を受験できるか
- 合格者がどの程度いるか
を確認することが重要です。
4.自社の待遇を他社と比較する
国内人材の採用では、外国人本人も求人を比較します。
基本給だけでなく、
- 社宅費
- 水道光熱費
- 食事補助
- 通勤方法
- 賞与
- 昇給
- 夜勤手当
- 転居費用
- 一時帰国への配慮
- 資格取得支援
などを含めた条件設計が必要です。
5.採用後の定着まで準備する
採用できても、短期間で退職されれば企業の負担は大きくなります。
仕事内容や給与からの控除額、勤務地、勤務時間、寮の環境などを採用前に説明し、入社後も定期的に面談することが重要です。
受け入れ枠に余裕がある分野ほど採用しやすいとは限らない
特定技能の採用を考える際、受け入れ見込数と在留者数の比較は重要です。
しかし、充足率が低い分野には、
- 制度開始から日が浅い
- 技能試験の合格者が少ない
- 免許や資格が必要
- 高い日本語力が必要
- 企業側の受け入れ要件が厳しい
といった理由がある場合があります。
反対に、外食業や介護のように在留者が多い分野では、国内人材の採用ルートが確立している一方、企業間の人材獲得競争が激しくなっています。
したがって、採用のしやすさは、単純に「枠が残っているか」だけでは判断できません。
まとめ
2026年1月の見直しにより、特定技能1号の受け入れ見込数は全19分野で80万5,700人となりました。
2026年3月末時点の在留者数は40万4,527人で、全体の充足率は50.2%です。
ただし、分野別に見ると、
- 外食業:95.4%
- 飲食料品製造業:72.2%
- 建設:67.2%
- 介護:58.9%
- 農業:54.5%
と、すでに枠の半分を超えている分野があります。(法務省)
一方、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業などは充足率が低いものの、免許、試験、日本語、教育体制などの面で採用準備に時間がかかります。
物流倉庫、リネンサプライ、資源循環は新しい選択肢として期待されますが、制度や試験が整うまで、すぐに大量採用できるとは限りません。
企業が特定技能外国人を採用する際は、
受け入れ枠、試験合格者数、採用国、手続き期間、待遇、住居、入社後支援
を総合的に確認することが重要です。
制度上採用できるかだけでなく、外国人本人に選ばれ、長く働いてもらえる環境を準備できるかが、今後の採用成否を左右します。



