物流業界では、慢性的な人手不足が大きな経営課題となっています。なかでも倉庫現場では、入出庫、ピッキング、仕分け、検品、梱包、在庫管理など、多くの工程で人材確保が難しくなっています。
こうした状況を受け、2026年1月23日の閣議決定により、「物流倉庫分野」が特定技能制度と育成就労制度の対象分野に追加されました。また、2026年6月26日には物流倉庫分野の上乗せ基準に関する告示が公布され、受け入れ企業に求められる条件が具体的に示され始めています。
ただし、2026年7月時点では、物流倉庫分野の特定技能1号評価試験の開始時期や分野別協議会の加入受付などは、まだ調整中です。したがって、すでに全面的に採用が始まっているわけではなく、現在は制度開始に向けた最終準備段階と考えるのが正確です。
制度が動き出してから準備を始めるのではなく、今のうちに自社が対象になるか、どのような体制が必要かを確認しておくことが重要です。

物流倉庫分野で想定される業務
物流倉庫分野の特定技能外国人が従事できる中心的な業務は、倉庫内で行われる次のような作業です。
- 貨物の入庫作業
- 貨物の出庫作業
- 商品や原材料の保管
- ピッキング、仕分け
- 検品、梱包
- 倉庫内の貨物移動
- 在庫管理に関連する作業
- 小分け、再包装、タグ付け、ラベル貼り、セット組みなどの流通加工
制度上は「物流倉庫において、倉庫内で行われる貨物の入出庫、保管その他の倉庫内各種作業」が対象とされています。これらの業務に従事する日本人が通常行う連絡、報告、整理整頓、清掃、台風接近時の貨物移動などについても、関連業務として付随的に行うことができます。
一方で、商品そのものを製造したり、製品の機能や性能を完成させたりする作業は「流通加工」ではなく、製造工程に該当する可能性があります。単に倉庫の中で作業しているからといって、すべての業務が物流倉庫分野の対象になるわけではありません。
すべての倉庫会社が受け入れられるわけではない

今回の制度で特に注意したいのが、受け入れ企業の範囲です。
特定技能外国人を受け入れられる企業として、主に次の事業者が想定されています。
1.登録を受けた倉庫業者
倉庫業法に基づき、国土交通大臣の登録を受けた倉庫業者で、貨物の入出庫、保管などの倉庫作業を自社で実施している事業者です。
2.登録倉庫業者から倉庫作業を受託している事業者
登録倉庫業者との業務委託契約に基づき、その倉庫業者が占有する営業用倉庫で作業を行う請負会社なども対象となる可能性があります。
ただし、この場合は、外国人の雇用を継続できるよう、委託元の倉庫業者と受託会社が共同で責任を持つ旨の協議書を作成し、取り交わすことが求められます。
3.許可を受けた貨物自動車運送事業者
一般貨物自動車運送事業または特定貨物自動車運送事業の許可を受け、自社が占有する倉庫で倉庫作業を行っている運送会社なども対象に含まれます。
したがって、メーカーの自社倉庫、小売業者のバックヤード、無登録の保管施設などが、そのまま対象になるとは限りません。受け入れを検討する際は、まず自社の事業許可、倉庫の使用関係、委託契約の内容を確認する必要があります。
雇用は「直接雇用」が原則
物流倉庫分野の特定技能外国人は、受け入れ企業による直接雇用に限られます。人材派遣会社から特定技能外国人を派遣してもらい、倉庫で勤務させる形は認められていません。
物流倉庫では派遣社員を活用している企業も多いため、従来の人材確保方法との違いを理解しておく必要があります。
受け入れ企業は、自社が雇用主として、
- 雇用契約の締結
- 給与の支払い
- 社会保険への加入
- 労働時間の管理
- 安全衛生教育
- 外国人本人への支援
などに責任を負います。
1号特定技能外国人への支援は、一定の要件を満たす登録支援機関へ委託することもできます。
WMSなどの情報システムが重要な条件に

物流倉庫分野では、単に人手が不足しているだけでは受け入れが認められません。受け入れ企業には、生産性と労働安全衛生の向上に取り組むことが求められています。
具体的には、
- 入庫管理
- 在庫管理
- 出庫管理
の機能を備えた情報システム、またはそれに準じるシステムを利活用していることが条件となります。
国土交通省は、いわゆるWMS(倉庫管理システム)を想定していますが、必ずしも「WMS」という名称の商品を導入している必要はありません。3つの管理機能を満たすシステムであれば、自社開発や取引先が所有するシステムでも対象になり得ます。
また、システムと連携し、省力化や安全性向上につながる機器・システムを継続的に活用することも求められます。
例えば、
- バーコードリーダー
- ハンディターミナル
- デジタルピッキングシステム
- 搬送機器
- 自動仕分け設備
- フォークリフトの安全管理システム
- 入退場管理システム
などが考えられます。
協議会へ加入してからおおむね1年を目途に、システムの利活用状況を協議会へ報告し、確認を受けることも予定されています。
外国人本人に求められる条件
物流倉庫分野で特定技能1号になるには、原則として次の2つの基準を満たす必要があります。
技能試験
「物流倉庫分野特定技能1号評価試験」への合格が求められます。
ただし、2026年6月時点では試験の実施要領と開始時期は調整中であり、国土交通省は、決定後に公表するとしています。
日本語能力
日本語能力については、「日本語教育の参照枠」のA2.2相当以上が求められる方針です。一般的な特定技能分野で多く用いられている日本語能力試験N4相当より、実務上やや高い日本語運用力が意識された基準です。
倉庫では、商品番号、数量、出荷先、作業手順、安全表示などを正確に理解する必要があります。試験合格だけでなく、現場で使う日本語や数字の読み方を事前に教育することが重要です。
受け入れ見込数は3年間で1万1,400人
物流倉庫分野では、2026年度から2028年度までの3年間で、特定技能1号外国人を最大1万1,400人受け入れる方針が示されています。
育成就労外国人は、2027年度からの2年間で6,900人が見込まれており、両制度を合わせた物流倉庫分野全体の受け入れ見込数は1万8,300人です。
物流倉庫分野は、今後、育成就労から特定技能1号へ移行する人材育成ルートも整備される予定です。短期的な人手不足対策だけでなく、長期的な技能形成を前提とした制度として運用されることになります。

倉庫会社が今から準備すべき7つのこと

1.自社が受け入れ対象か確認する
最初に確認すべきことは、自社が倉庫業法上の登録倉庫業者、業務受託会社、許可を受けた貨物自動車運送事業者のいずれに該当するかです。
倉庫の所有者、占有者、業務委託元、実際の作業実施者を整理しておきましょう。
2.外国人に任せる業務を整理する
入庫、保管、ピッキング、検品、梱包、出庫など、外国人に任せる具体的な仕事を書き出します。
製造作業や対象外業務が中心になっていないかも確認が必要です。
3.WMSなどの導入状況を確認する
入庫・在庫・出庫の3機能を備えたシステムを利用しているか確認します。
紙や表計算ソフトだけで管理している企業は、制度開始前にシステム導入や業務改善を検討した方がよいでしょう。
4.賃金と雇用条件を決める
特定技能外国人には、同じ仕事をする日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。
基本給だけでなく、手当、賞与、昇給、夜勤手当、残業代、休日などを含め、日本人社員との比較ができるようにしておきます。
5.安全教育を多言語化する
倉庫内では、フォークリフト、搬送機器、ラック、重量物などによる事故のリスクがあります。
写真や動画、やさしい日本語、母国語資料などを使い、
- 立入禁止区域
- ヘルメットなどの保護具
- 荷崩れへの対応
- 機械停止の手順
- 緊急時の連絡方法
を分かりやすく伝える体制が必要です。
6.住居と通勤方法を確認する
物流倉庫は駅から離れていることも多いため、外国人本人の通勤方法が問題になりやすい分野です。
社宅、自転車、送迎車、公共交通機関など、毎日無理なく通勤できる方法を採用前に決めておく必要があります。
7.登録支援機関を早めに選ぶ
1号特定技能外国人には、生活オリエンテーション、住居確保、行政手続き、相談対応、日本語学習機会の提供、定期面談などの支援が必要です。
物流倉庫分野では、支援の全部を登録支援機関へ委託する場合、その登録支援機関にも分野別協議会への加入などが求められる方針です。物流倉庫分野への対応予定があるか、事前に確認しておきましょう。
現時点では、採用を急ぐより準備を進める時期
物流倉庫分野の上乗せ基準は公布されましたが、特定技能1号評価試験、分野別協議会、物流倉庫分野の運用要領別冊などは、2026年7月時点で公表待ちの部分があります。
そのため、現時点で「すぐに海外から物流倉庫の特定技能外国人を採用できる」と判断するのは早計です。
一方で、制度開始後は、採用を希望する倉庫会社が一斉に動き出す可能性があります。受け入れ対象の確認、WMSの整備、求人条件、住居、教育体制など、時間のかかる準備は今から進められます。
まとめ
物流倉庫分野が特定技能の対象に加わることで、倉庫会社にとって新たな人材確保の選択肢が生まれます。
ただし、外国人を単なる作業人員として配置する制度ではありません。
受け入れ企業には、
- 対象となる事業者要件を満たすこと
- 外国人を直接雇用すること
- WMSなどを活用すること
- 日本人と同等以上の待遇を確保すること
- 安全教育と生活支援を行うこと
- 分野別協議会へ加入すること
などが求められます。
制度の詳細がすべて発表されてから準備するのでは、採用開始が遅れる可能性があります。物流倉庫分野での受け入れを検討している企業は、まず自社が対象となるかを確認し、業務、雇用条件、システム、教育、住居、支援体制を一つずつ整えていくことが重要です。



