はじめに
農業の現場では、収穫期・定植期・出荷作業が重なる時期など、短期間に多くの人手が必要になる場面が少なくありません。
一方で、農業従事者の高齢化や担い手不足は年々深刻化しており、家族や近隣の人手だけでは繁忙期を乗り切ることが難しい農業経営体も増えています。
農林水産省の資料でも、令和6年時点の基幹的農業従事者は約20年間で半減し、65歳以上が全体の71.7%を占めるとされています。平均年齢も69.2歳となっており、農業分野における人材確保は大きな経営課題です。
こうした中で注目されているのが、外国人材の受け入れです。特に「特定技能」制度は、深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性や技能を持つ外国人材を受け入れる制度として設けられています。農業は特定技能の対象分野の一つです。
農業分野で外国人材を受け入れるメリット
農業分野で外国人材を受け入れる一番のメリットは、繁忙期の作業遅れを防ぎやすくなることです。
農業では、収穫や出荷のタイミングが遅れると、品質低下や販売機会の損失につながることがあります。人手が足りないために収穫が間に合わない、選別や箱詰めが追いつかない、出荷作業が夜遅くまで続くといった状況は、現場にとって大きな負担です。
外国人材を計画的に受け入れることで、繁忙期に必要な人員を確保しやすくなり、作業の遅れや既存スタッフへの過度な負担を減らすことができます。
また、受け入れをきっかけに作業手順を見直すことも大きな効果です。外国人材に仕事を教えるためには、作業内容を分かりやすく整理する必要があります。その結果、作業マニュアルの整備、指示の明確化、担当者ごとの役割分担が進み、日本人スタッフにとっても働きやすい職場づくりにつながります。
さらに、安定して働いてくれる人材を確保できれば、作付面積の維持や拡大、新しい品目への挑戦、出荷量の安定化にもつながります。人手不足を理由に事業を縮小するのではなく、将来を見据えた農業経営を考えるうえでも、外国人材の活用は重要な選択肢になります。

特定技能「農業」で任せられる主な業務
特定技能の農業分野では、主に「耕種農業」と「畜産農業」の業務が対象になります。
耕種農業では、栽培管理、農産物の集出荷、選別などが対象となります。畜産農業では、飼養管理、畜産物の集出荷、選別などが対象です。出入国在留管理庁の農業分野の説明でも、耕種農業全般、畜産農業全般が業務区分として示されています。
ただし、注意したいのは「選別だけ」「箱詰めだけ」「運搬だけ」といった形で、農業本体の業務から切り離して働かせることは適切ではないという点です。栽培管理や飼養管理など、農業分野として認められる業務内容をきちんと含める必要があります。
そのため、受け入れを検討する際は、実際に任せたい作業が特定技能の農業分野に該当するかを事前に確認しておくことが大切です。
受け入れ時に注意すべきポイント

外国人材を受け入れる際は、「人手が足りないから来てもらう」だけではうまくいきません。受け入れ後に安定して働いてもらうためには、労務管理・生活支援・安全教育を整える必要があります。
まず重要なのは、労働条件の明確化です。賃金、労働時間、休日、残業、住居費の負担、交通手段などを曖昧にしたまま受け入れると、後々トラブルにつながる可能性があります。日本人従業員と同じように、適切な労働条件を整え、内容を本人が理解できる形で説明することが必要です。
次に、安全教育です。農業では、農機具、刃物、重量物、高温環境、農薬、家畜との接触など、注意すべき作業が多くあります。日本語が十分でない外国人材に対しては、口頭説明だけではなく、写真やイラストを使った説明、実演、母国語資料の活用なども有効です。農林水産省も外国語版の農作業安全リーフレットを公開しており、安全教育の重要性がうかがえます。
また、生活面の支援も欠かせません。住居、買い物、病院、銀行口座、携帯電話、ゴミ出し、地域での生活ルールなど、仕事以外の不安を減らすことで、職場への定着率も高まりやすくなります。
さらに、農業分野で特定技能外国人を受け入れる場合は、農業特定技能協議会への加入など、制度上の手続きも確認が必要です。農林水産省の案内では、地方出入国在留管理局への在留諸申請の際に、農業特定技能協議会の構成員であることを明らかにする書類が必要とされています。協議会への加入申請は、通常、申請日からおおむね2週間程度で加入通知書が送付されると案内されています。
繁忙期に備えるために企業が準備すべきこと
外国人材の受け入れは、繁忙期の直前に動き出しても間に合わないことがあります。採用、面接、雇用契約、在留資格の申請、住居準備、入国後の生活支援など、実際には多くの準備が必要です。
そのため、まずは年間の作業スケジュールを整理し、どの時期に、何人分の人手が不足するのかを見える化することが大切です。
例えば、以下の形で整理すると、受け入れ計画を立てやすくなります。

次に、外国人材に任せる業務を具体的に決めます。
「何でも手伝ってほしい」ではなく、「収穫補助」「選別」「箱詰め」「栽培管理補助」「畜舎清掃」「飼養管理補助」など、実際の作業を明確にしておくことが重要です。
そのうえで、受け入れ担当者を決め、仕事を教える人、生活面を確認する人、書類や届出を管理する人を整理しておくと、受け入れ後の混乱を防ぎやすくなります。

外国人材の受け入れは「採用」ではなく「定着」まで考えることが大切
農業分野の外国人材受け入れでは、採用できるかどうかだけでなく、受け入れ後に長く安心して働いてもらえるかが重要です。
せっかく人材を受け入れても、仕事内容が伝わらない、生活面で困っている、職場で相談できる人がいないという状態では、早期離職やトラブルにつながる可能性があります。
反対に、作業内容を丁寧に教え、生活面の不安を減らし、職場の一員として受け入れる体制を整えることで、外国人材は農業経営を支える大切な戦力になります。
繁忙期の人手不足に悩んでいる農業者・農業法人にとって、外国人材の活用は有効な選択肢です。
ただし、制度の理解、労務管理、安全教育、生活支援を整えたうえで進めることが成功のポイントです。
まとめ
農業分野では、高齢化や担い手不足により、繁忙期の人材確保がますます重要になっています。外国人材を計画的に受け入れることで、収穫・選別・出荷などの作業を安定させ、既存スタッフの負担軽減や経営の安定につなげることができます。
一方で、受け入れには制度上の手続きや支援体制の整備が必要です。
「人手が足りないからすぐに採用する」のではなく、いつ、どの作業に、どのような人材が必要なのかを整理し、早めに準備を進めることが大切です。
農業分野で外国人材の受け入れを検討している事業者様は、まずは自社の繁忙期、人員計画、受け入れ体制を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。


