運送業界では、ドライバー不足が大きな課題となっています。
求人を出しても応募が少ない。
若い人材がなかなか入ってこない。
既存のドライバーの高齢化が進んでいる。
残業規制や働き方改革への対応も必要になっている。
こうした状況の中で、外国人ドライバーの採用に関心を持つ運送会社は増えています。特定技能制度でも、自動車運送業分野で外国人材の受け入れが可能となり、トラック、タクシー、バスなどの分野で外国人ドライバーの活用が注目されています。
しかし、実際には「興味はあるが、まだ踏み出せない」という会社も少なくありません。
その理由は、単に外国人材に抵抗があるからではありません。運送業には、他の業種にはない特有の不安があります。
特に多いのが、次の3つです。
・日本の運転免許を取得できるのか
・日本語で安全確認や指示ができるのか
・事故が起きた時に会社として対応できるのか
この記事では、なぜ外国人ドライバー採用がなかなか進まないのか、そして運送会社が採用前に確認すべきポイントについて解説します。
外国人ドライバー採用が注目される背景
運送業界では、慢性的な人手不足が続いています。荷物の配送、企業間輸送、地域交通、観光バス、タクシーなど、ドライバーは社会インフラを支える重要な仕事です。
一方で、長時間労働のイメージ、若年層の応募減少、賃金水準、勤務時間の不規則さなどが原因となり、国内人材だけで十分な人員を確保することが難しくなっています。
そこで注目されているのが、外国人材の活用です。
すでに介護、農業、外食、建設、製造業などでは、特定技能外国人が現場で活躍しています。運送業でも、制度上は外国人ドライバーの受け入れが進められる段階に入っています。
ただし、運送業は「人手が足りないからすぐ採用できる」という単純な分野ではありません。人の命や荷物を預かる仕事であり、安全運行、交通法規、点呼、車両点検、事故対応、顧客対応など、非常に高い責任が求められます。
そのため、外国人ドライバー採用には、制度面だけでなく、現場運用まで含めた準備が必要です。
不安1:日本の運転免許を取得できるのか

運送会社が最初に不安を感じるのが、運転免許の問題です。
外国で運転経験がある人でも、日本で事業用自動車を運転するためには、日本のルールに基づいた運転免許が必要です。特定技能の自動車運送業分野では、トラックの場合は第一種運転免許、タクシー・バスの場合は第二種運転免許が関係します。
ここで企業が不安に感じるのは、次のような点です。
・外国の免許を日本の免許に切り替えられるのか
・外免切替にどれくらい時間がかかるのか
・学科試験や技能試験に合格できるのか
・大型免許や中型免許まで取得できるのか
・免許が取れなかった場合、採用計画はどうなるのか
特に注意したいのは、「外国で運転できる=すぐ日本でドライバーとして働ける」わけではないという点です。
日本の道路は、左側通行、標識、狭い道、歩行者や自転車への配慮、住宅街での配送、積雪地域での運転など、外国とは異なる点が多くあります。免許取得だけでなく、日本の交通事情に慣れるための教育も重要です。
そのため、採用前には、候補者の運転経験、免許の種類、外免切替の可能性、日本語での学習能力、教習に必要な期間を確認しておく必要があります。

不安2:日本語で安全確認や指示ができるのか

次に大きな不安が、日本語の問題です。
運送業では、単に日常会話ができればよいわけではありません。現場では、次のような日本語理解が必要になります。
・点呼時の指示
・アルコールチェックや健康状態の確認
・運行ルートの説明
・積み込み、荷下ろしの指示
・納品先でのやり取り
・遅延や事故時の報告
・緊急時の連絡
・車両点検に関する用語
・道路標識や交通ルールの理解
たとえば、「急ブレーキに注意」「荷崩れしないように固定」「左折時は巻き込み確認」「到着前に先方へ連絡」といった指示は、運送業では日常的に使われます。
外国人材が日本語試験に合格していても、こうした現場用語を最初から理解できるとは限りません。
そのため、外国人ドライバーを受け入れる場合は、「日本語ができるかどうか」だけで判断するのではなく、「運送業務に必要な日本語を教える仕組みがあるか」が重要です。
具体的には、次のような対応が効果的です。
・点呼や安全確認の定型文を作る
・運行ルートや注意事項を図や写真で説明する
・車両点検の項目を多言語またはやさしい日本語で整理する
・事故時の報告フローをカード化する
・最初は同乗研修を行い、実際の場面で言葉を確認する
日本語能力だけを理由に採用を諦めるのではなく、会社側が伝わる仕組みを作ることで、不安はかなり軽減できます。
不安3:事故が起きた時に対応できるのか

運送会社にとって、最も大きな不安は事故対応です。
外国人ドライバーに限らず、運送業では事故リスクをゼロにすることはできません。だからこそ、事故を起こさないための教育と、万が一事故が起きた時の対応体制が重要です。
企業が不安に感じるのは、次のような点です。
・事故時に本人が状況を正しく説明できるか
・警察や相手方とのやり取りができるか
・会社への第一報が遅れないか
・保険会社への説明に支障が出ないか
・本人がパニックにならないか
・事故後の再教育をどう行うか
この不安を解消するには、採用後に「事故を起こさないように気をつけて」と伝えるだけでは不十分です。
事故時の対応は、事前にマニュアル化しておく必要があります。
たとえば、次のような内容です。
・事故が起きたら、まず安全な場所に停車する
・けが人がいる場合は救急へ連絡する
・警察へ連絡する
・会社の担当者へすぐ電話する
・相手方とその場で勝手に示談しない
・写真を撮る場所を決めておく
・ドライブレコーダーの記録を保存する
・分からない時は会社の指示を待つ
これらを日本語だけでなく、本人が理解しやすい形で教育しておくことが重要です。
事故対応は「外国人だから難しい」のではなく、「事前に決めておけば対応できる」部分が多いものです。
大切なのは、本人任せにしないことです。
事故が起きた時に、本人が一人で警察、相手方、保険会社、会社への報告をすべて完璧に行うことは、日本人ドライバーであっても簡単ではありません。
だからこそ、会社として、
・事故時にまず何をするのか
・誰に電話するのか
・どの順番で対応するのか
・絶対にしてはいけないことは何か
・日本語が不安な場合に誰がサポートするのか
を事前に決めておくことが重要です。
外国人ドライバーを採用する場合は、事故対応マニュアルを「読む資料」として渡すだけでなく、実際の場面を想定した研修を行うことが望ましいです。
たとえば、事故が起きた場面を想定して、
「まず車を安全な場所に止める」
「けが人がいないか確認する」
「警察に連絡する」
「会社の担当者に電話する」
「相手方と勝手に約束しない」
といった流れを、何度も確認しておく必要があります。
事故対応に不安がある会社ほど、採用前の段階で対応フローを整えておくことが大切です。

不安4:教育に時間がかかるのではないか
外国人ドライバー採用では、免許、日本語、事故対応のほかに、「教育に時間がかかるのではないか」という不安もあります。
運送業では、採用してすぐに一人で運転させることはできません。
これは外国人に限らず、日本人の新人ドライバーでも同じです。
会社ごとに、運行ルート、荷主とのやり取り、積み込み方法、納品ルール、車両点検、点呼、安全確認の方法が異なります。
外国人ドライバーの場合は、これに加えて、日本の交通ルールや職場で使う日本語、生活面のサポートも必要になります。
そのため、採用前から「どのような教育を行うか」を決めておくことが重要です。
具体的には、次のような教育体制が考えられます。
・入社時の安全教育
・日本の交通ルールの確認
・点呼、アルコールチェック、健康確認の説明
・車両点検のやり方
・荷物の積み方、固定方法
・納品先での対応
・事故時、遅延時の報告方法
・同乗研修
・定期的な面談と振り返り
特に、最初の数か月は「運転できるか」だけでなく、「報告・連絡・相談ができているか」を確認することが大切です。
運送業では、少しの連絡不足が大きなトラブルにつながることがあります。
そのため、外国人ドライバーを受け入れる場合は、運転技術だけでなく、会社への報告ルールを丁寧に教える必要があります。
採用前に確認すべきポイント
外国人ドライバーの採用を検討する場合、いきなり面接や採用に進むのではなく、まず会社側で確認すべきことがあります。
- どの業務を任せたいのか
まずは、外国人ドライバーにどの業務を任せたいのかを整理します。
たとえば、
・近距離配送
・中距離輸送
・長距離輸送
・ルート配送
・企業間配送
・タクシー乗務
・バス運転
・倉庫作業を含む業務
など、業務内容によって必要な免許、日本語力、研修内容が変わります。
「とにかくドライバーが足りない」という状態で採用を進めるのではなく、任せる仕事を具体的に決めることが大切です。
- 免許取得までの期間を見込んでいるか
外国人ドライバー採用では、免許取得や外免切替に時間がかかることがあります。
そのため、「採用したらすぐに乗務できる」と考えるのではなく、免許取得、教育、同乗研修まで含めたスケジュールを考えておく必要があります。
会社としては、
・いつから働いてほしいのか
・免許取得まで待てるのか
・免許取得前にできる業務があるのか
・教習費用や研修期間をどう考えるのか
を事前に整理しておくと安心です。
- 日本語教育と現場教育の担当者を決めているか
外国人ドライバーを受け入れる場合、現場で誰が教えるのかを決めておくことが重要です。
担当者が決まっていないと、本人が困った時に誰へ相談すればよいか分からなくなります。
また、現場の従業員側も「誰が責任を持って教えるのか」が分からず、受け入れがうまく進まないことがあります。
受け入れ前に、
・運転教育の担当者
・点呼や安全教育の担当者
・生活面の相談担当者
・日本語や連絡面をサポートする担当者
を決めておくと、採用後の混乱を防ぎやすくなります。
- 事故時の対応フローを準備しているか
外国人ドライバーを受け入れる前に、事故時の対応フローは必ず確認しておきたいポイントです。
特に重要なのは、「事故が起きた時に、本人が最初に何をするか」です。
事故時の対応カードを作成し、車内に置いておく方法も有効です。
たとえば、
- 安全な場所に停車する
- けが人を確認する
- 必要に応じて救急車を呼ぶ
- 警察に連絡する
- 会社の担当者に電話する
- 相手方と勝手に示談しない
- 現場写真を撮る
- 会社の指示を待つ
このような流れを、本人が理解できる形で準備しておくことが大切です。
外国人ドライバー採用を進めるために必要な会社側の準備
外国人ドライバー採用を成功させるためには、本人の努力だけでなく、会社側の受け入れ体制が重要です。
特に運送業では、安全運行が最優先です。
そのため、採用前から次のような体制を整えておくことが望ましいです。
・免許取得や研修のスケジュールを決める
・日本語での安全指示を分かりやすくする
・点呼や車両点検の手順を整理する
・事故時の対応マニュアルを作る
・同乗研修の期間を設ける
・相談できる担当者を決める
・定期的に面談を行う
・生活面の不安にも早めに対応する
外国人ドライバーを採用する場合、最初から完璧な日本語力や日本の運転経験を求めるだけでは、採用はなかなか進みません。
大切なのは、会社が「育てる仕組み」を持つことです。
運転技術、安全意識、報告の仕方、顧客対応、生活面の安定を一つずつ確認しながら育成していくことで、外国人ドライバーが長く活躍しやすくなります。
登録支援機関に相談することで不安を整理できる
外国人ドライバー採用では、制度、在留資格、支援体制、生活面のサポートなど、会社だけでは判断しにくいことも多くあります。
特に初めて外国人材を受け入れる運送会社にとっては、
・どの在留資格で採用できるのか
・どのような支援が必要なのか
・住居や生活面の準備はどうするのか
・本人との面談や相談対応をどう行うのか
・採用後にどのようなフォローが必要なのか
といった点で不安を感じることがあります。
このような場合は、登録支援機関などの専門家に相談しながら進めることで、受け入れ前の不安を整理しやすくなります。
登録支援機関は、外国人材の生活支援や相談対応、定期面談、各種サポートなどを行う機関です。
運送会社が本業である安全運行や労務管理に集中できるよう、外国人材の受け入れに関する実務面を支援する役割があります。
ただし、登録支援機関に委託すれば、会社の責任がなくなるわけではありません。
雇用主としての労務管理、安全教育、運行管理、事故防止の責任は、受け入れ企業に残ります。
そのため、登録支援機関を活用しながら、会社としての教育体制や管理体制も整えていくことが重要です。
まとめ:外国人ドライバー採用は「不安を整理すること」から始まる
外国人ドライバー採用がなかなか進まない理由は、単に外国人材に抵抗があるからではありません。
運送業には、免許、日本語、安全確認、事故対応、顧客対応など、他の業種以上に慎重な準備が必要な要素があります。
特に運送会社が不安に感じやすいのは、次の3つです。
・日本の運転免許を取得できるのか
・日本語で安全確認や指示ができるのか
・事故が起きた時に対応できるのか
これらの不安は、採用前に確認すべきポイントを整理し、教育体制や事故対応フローを整えることで軽減できます。
外国人ドライバー採用は、「人手不足だからすぐ採用する」というものではありません。
しかし、準備をしっかり行えば、運送会社にとって新しい人材確保の選択肢になります。
これから外国人ドライバーの採用を検討する会社は、まず自社の業務内容、必要な免許、日本語教育、安全教育、事故対応体制を確認することから始めてみてください。
「うちの会社でも外国人ドライバーを受け入れられるのか」
「免許や日本語、事故対応が不安」
「何から準備すればよいか分からない」
このようなお悩みがある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
外国人ドライバー採用は、準備次第で大きな可能性があります。
不安を一つずつ整理し、安心して受け入れられる体制を整えていきましょう。



