外国人ドライバー採用の本当の壁|特定技能・免許・研修・支援体制を解説

外国人ドライバー採用の本当の壁

物流業界・バス業界・タクシー業界では、慢性的な人手不足が続いています。求人を出しても応募が少ない、若いドライバーが集まらない、既存社員の高齢化が進んでいる――このような悩みを抱える事業者は少なくありません。

そうした中で注目されているのが、在留資格「特定技能」による外国人ドライバーの採用です。自動車運送業分野は、バス・タクシー・トラックを対象に特定技能1号での受入れが可能な分野として位置付けられています。国土交通省の資料では、自動車運送業分野の受入れ見込数は2.21万人とされています。

ただし、外国人ドライバーの採用は、単に「外国人を採用してビザを取れば終わり」というものではありません。実際には、免許取得、特定技能評価試験、日本語能力、研修、安全管理、生活支援など、乗務開始までに乗り越えるべき実務上のハードルがあります。

この記事では、外国人ドライバー採用で企業が本当に注意すべきポイントを、特定技能・免許・研修・支援体制の観点から解説します。

  1. 特定技能「自動車運送業分野」とは

特定技能制度は、人手不足が深刻な産業分野において、一定の専門性・技能を持つ外国人材を受け入れるための在留資格です。自動車運送業分野では、主に次の3つの区分が対象になります。

区分主な業務
トラック運行業務、荷役業務
バス運行業務、接遇業務
タクシー運行業務、接遇業務

トラックの場合は貨物の運搬だけでなく、運行前後の点検、乗務記録の作成、荷崩れを防ぐ積付けなども重要な業務に含まれます。タクシーやバスの場合は、運転技術だけでなく、乗客対応や緊急時対応も求められます。運用要領でも、各区分ごとに運行前後の点検、安全な運行、乗務記録の作成、乗客対応などができる水準を確認するものとされています。

ここで大切なのは、外国人材を「単なる人手」として見るのではなく、安全運行を担う専門人材として育成・定着させる視点です。

  1. 一番大きな壁は「免許」
外国人ドライバー採用の基本要件

外国人ドライバー採用で最初に大きな壁になるのが、運転免許です。

特定技能の自動車運送業分野では、トラックは第一種運転免許、タクシー・バスは第二種運転免許が必要になります。加えて、それぞれの区分に応じた自動車運送業分野特定技能1号評価試験に合格する必要があります。

トラックの場合

トラック運送業では、主に次の要件が必要です。

項目内容
運転免許第一種運転免許
技能試験自動車運送業分野特定技能1号評価試験・トラック
日本語能力A2.2相当以上、目安としてJLPT N4またはJFT-Basic

トラックの場合、特定技能評価試験と日本語試験に合格していても、日本の免許がなければ実際に乗務することはできません。そのため、外国で運転経験がある人材であっても、日本国内での免許取得や外免切替を前提に、採用スケジュールを組む必要があります。

タクシー・バスの場合

タクシー・バスでは、第二種運転免許が必要です。さらに、旅客対応があるため、求められる日本語水準も高くなります。

項目内容
運転免許第二種運転免許
技能試験自動車運送業分野特定技能1号評価試験・タクシーまたはバス
日本語能力原則B1相当以上、目安としてJLPT N3

追加要件

新任運転者研修の修了
国土交通省の制度概要では、タクシー・バスはB1相当以上が基本とされ、日本語サポーターが同乗する場合にはA2.2相当で可能とされるケースも示されています。

つまり、タクシー・バスは「運転できるか」だけではなく、乗客と日本語でやり取りできるか、事故やトラブル時に対応できるかが重要になります。

  1. 入社してすぐ乗務できるわけではない
採用から乗務開始までの流れ

外国人ドライバーを採用する際、企業側が誤解しやすいのが「採用したらすぐに運転業務に就ける」という点です。

実際には、免許取得や研修のために一定期間が必要です。国土交通省の資料では、日本国内で運転免許を取得するための手続等に要する期間について、在留資格「特定活動」による在留が認められる仕組みが示されています。トラック運転手は6か月、バス・タクシー運転手は1年で、いずれも更新不可とされています。

また、運用要領別冊では、免許取得や新任運転者研修のため、一定期間日本に在留する必要があることから、要件を満たした者については在留資格「特定活動」による入国・在留を認めるとされています。特定活動で在留している期間は、特定技能1号の通算在留期間には算入されません。

そのため、企業は採用計画を立てる際に、次のような流れを想定する必要があります。

  1. 候補者の選定
  2. 技能試験・日本語能力の確認
  3. 雇用契約の締結
  4. 在留資格申請
  5. 入国後の免許取得・研修
  6. 特定技能1号への移行
  7. 乗務開始

特にトラック・バス・タクシーでは、入社日と乗務開始日が一致しない可能性が高いため、採用から実際の稼働までの期間を見込んだ人員計画が必要です。

  1. タクシー・バスは「新任運転者研修」が重要

タクシー・バスの場合、第二種免許だけでなく、新任運転者研修の修了が必要になります。

運用要領では、タクシー運送業およびバス運送業においては、技能試験・日本語試験・第二種運転免許に加えて、新任運転者研修の修了が必要とされています。また、研修修了にあたっては、業界団体が定めた効果測定の基準に達する必要があります。

これは、旅客運送では乗客の命を預かるためです。外国人材だから特別に難しいというよりも、旅客運送業として当然求められる安全教育・接遇教育・緊急時対応を、外国人材にも確実に理解してもらう必要があります。

企業側では、次のような準備が重要です。

準備項目内容
座学研修法令、安全運転、接遇、事故時対応
実技研修構内走行、路上走行、ルート確認
日本語研修点呼、報告、乗客対応、事故時の説明
現場同行先輩社員による同乗指導
効果測定理解度確認、改善指導

免許が取れたから大丈夫」ではなく、日本の道路事情、会社の運行ルール、顧客対応まで含めて教育することが、外国人ドライバー採用成功のポイントです。

  1. 受入れ企業側にも要件がある
受け入れ企業が整えるべき体制

外国人ドライバーを受け入れるには、外国人本人だけでなく、受入れ企業側にも要件があります。

国土交通省の制度概要では、受入れ事業者の要件として、バス・タクシーでは「働きやすい職場認証制度」の認証取得等、トラックでは「働きやすい職場認証制度」または「Gマーク制度」の認証取得等が示されています。

また、自動車運送業分野では、特定技能協議会への加入も重要な実務です。国土交通省は、自動車運送業分野特定技能協議会の加入受付を開始しており、受入事業者や登録支援機関向けの届出フォームを案内しています。届出事項の内容確認には1か月程度を要する見込みとされています。

つまり、外国人材の採用活動を始める前に、企業側では次の確認が必要です。

確認項目ポイント
認証制度働きやすい職場認証、Gマーク等の確認
協議会自動車運送業分野特定技能協議会への加入
雇用契約点呼、報告、乗客対応、事故時の説明
現場同行先輩社員による同乗指導
効果測定理解度確認、改善指導
支援体制生活支援、日本語支援、相談体制
研修体制免許取得、運転研修、安全教育
住居・通勤寮、通勤手段、生活環境の整備

採用したい人材が見つかってから慌てて準備するのではなく、先に受入れ体制を整えておくことが大切です。

  1. 外国人ドライバー採用で注意すべき費用負担

外国人ドライバー採用では、免許取得費用や研修費用を誰が負担するのかも重要な論点です。

運用要領別冊では、運転免許の取得費用については、所属機関が負担することが望ましいとされています。一方で、本人が負担する場合には、採用時などに本人が十分理解できる言語で丁寧に説明し、事前に了承を得るよう求めています。

さらに、特定技能制度では、保証金の徴収、財産管理、違約金を定める契約、不当に財産の移転を予定する契約は禁止されています。免許取得費用についても、「一定期間働かなければ返済させる」といった形にすると、制度上問題になる可能性があります。

企業としては、費用負担について次のように整理しておくと安心です。

項目企業側の対応
免許取得費用原則として会社負担が望ましい
本人負担にする場合母国語等で十分に説明し、本人の了承を得る
返済契約違約金・拘束と見なされる内容は避ける
研修費用採用計画の中であらかじめ予算化する
住居費・生活費本人負担分を明確に説明する


外国人材とのトラブルは、採用後よりも、採用前の説明不足から始まることが多いです。給与、控除、寮費、免許費用、研修期間中の賃金などは、必ず分かりやすく説明しておく必要があります。

  1. 派遣での受入れはできない

自動車運送業分野では、特定技能外国人を労働者派遣で受け入れることはできません。

運用要領別冊では、1号特定技能外国人は労働者派遣によるものであってはならず、派遣することも、派遣された者を受け入れることもできないとされています。違反した場合には、以後5年間、特定技能外国人の受入れができなくなる可能性があることも示されています。

そのため、運送会社が外国人ドライバーを活用する場合は、原則として自社で直接雇用し、雇用契約・支援計画・教育体制を整える必要があります。

「人材会社からドライバーを派遣してもらう」という形ではなく、自社の社員として迎え入れ、育てていく仕組みが求められます。

  1. 本当の壁は「採用」ではなく「定着」

外国人ドライバー採用で最も大切なのは、在留資格を取ることだけではありません。むしろ本当の壁は、採用後にあります。

特にドライバー職では、次のような課題が起こりやすくなります。

課題起こりやすい問題
日本語点呼、報告、事故時対応が難しい
生活環境地方勤務で孤立しやすい
免許取得試験に時間がかかる場合がある
安全意識母国との交通ルールの違いがある
労働時間業務内容や拘束時間の理解が必要
人間関係配車担当者・先輩社員との意思疎通


外国人材が長く安心して働くためには、業務上の教育だけでなく、生活面の支援も重要です。

例えば、住居の確保、銀行口座、携帯電話、役所手続き、病院同行、日本語学習、相談対応などを丁寧に行うことで、本人の不安を減らすことができます。

また、ドライバー職では事故やトラブル時の初動対応が非常に重要です。外国人材が一人で抱え込まないように、緊急連絡先、報告ルール、事故時マニュアル、多言語資料などを整備しておくことが望ましいです。

  1. 外国人ドライバー採用を成功させる企業の特徴

外国人ドライバー採用で成功しやすい企業には、共通点があります。

  1. 採用前にスケジュールを理解している

免許取得、試験、在留資格、研修に時間がかかることを前提に、余裕を持って採用計画を立てています。

  1. 免許取得中の待遇を明確にしている

乗務開始前の賃金、業務内容、研修期間、生活費負担などを事前に説明しています。

  1. 現場社員に受入れの説明をしている

外国人材を採用することを経営者だけで決めるのではなく、配車担当者、管理者、先輩ドライバーにも共有しています。

  1. 日本語教育を継続している

採用時点の日本語能力だけに頼らず、点呼・報告・顧客対応・事故対応に必要な日本語を継続的に教えています。

  1. 相談できる窓口がある

仕事、生活、人間関係、体調不良などを早めに相談できる体制がある会社は、定着率が高くなりやすいです。

外国人ドライバー採用は、単なる人手不足対策ではなく、会社の教育体制・労務管理・安全管理を見直すきっかけにもなります。

  1. まとめ|外国人ドライバー採用は「免許・研修・支援体制」がカギ

特定技能によって、トラック・タクシー・バス分野でも外国人ドライバーを採用できる道が広がっています。しかし、実際に乗務してもらうまでには、免許取得、特定技能評価試験、日本語能力、研修、在留資格手続きなど、複数のステップがあります。

特に注意すべきポイントは、次の5つです。

ポイント内容
免許トラックは第一種、タクシー・バスは第二種が必要
試験自動車運送業分野特定技能1号評価試験が必要
日本語試トラックはA2.2相当、タクシー・バスは原則B1相当
研修タクシー・バスは新任運転者研修が必要
支援体制業務内容や拘束時間の理生活支援・日本語支援・相談対応が定着のカギ


外国人ドライバー採用の本当の壁は、ビザだけではありません。
免許取得までの計画、研修体制、安全管理、生活支援まで整えられるかどうかが、採用成功の分かれ道です。

これから外国人ドライバーの採用を検討する企業は、「人が足りないから採用する」のではなく、「長く安全に働ける仕組みを作る」という視点で準備を進めることが重要です。

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