介護業界では、慢性的な人手不足が大きな課題となっています。特に訪問介護の現場では、利用者の自宅へ直接訪問してサービスを提供するため、職員一人ひとりの経験や判断力、コミュニケーション力が重要になります。
はじめに
これまで、特定技能外国人が訪問介護などの訪問系サービスに従事することは原則として認められていませんでした。しかし、令和7年4月21日付けの制度改正により、一定の要件を満たす特定技能外国人については、受入事業所が必要な体制を整えることを条件に、訪問系サービスへ従事できるようになりました。
これは、介護事業所にとって大きな変化です。施設介護だけでなく、訪問介護の現場でも外国人介護人材の活躍が期待される一方で、事業所側には新たな確認事項や準備が求められます。
この記事では、介護事業所が知っておきたい新しい要件と、受け入れ前に準備すべきポイントをわかりやすく解説します。
特定技能外国人が訪問介護で働けるようになった背景
日本では高齢化が進み、介護サービスの需要は今後も続くと考えられています。一方で、介護職員の確保は簡単ではなく、特に訪問介護では人材不足が深刻になりやすい分野です。
訪問介護は、利用者の自宅という生活の場でサービスを行う仕事です。施設内の介護と異なり、職員が一人で訪問する場面も多く、利用者や家族との信頼関係、生活習慣への理解、緊急時の対応力などが求められます。
そのため、これまでは特定技能外国人が訪問介護に従事することには慎重な取り扱いがされてきました。しかし、外国人介護人材の受け入れが進み、介護現場での経験を積んだ人材も増えてきたことから、一定の要件と支援体制を前提に、訪問系サービスへの従事が認められるようになりました。
訪問介護に従事できる特定技能外国人の主な要件
特定技能外国人であれば、誰でもすぐに訪問介護に従事できるわけではありません。訪問系サービスに従事するためには、主に次のような要件を満たす必要があります。
まず、原則として介護事業所等で1年以上の実務経験があることが求められます。訪問介護では、利用者の自宅で一対一の対応を行うことが多いため、一定の介護経験を持っていることが重要です。
次に、介護職員初任者研修修了課程等を修了していることも必要です。訪問介護では、身体介護や生活援助に関する基本的な知識と技術が欠かせません。初任者研修等を通じて、介護の基本を身につけていることが前提になります。
さらに、利用者やその家族に対して、外国人介護人材が訪問系サービスに従事することを事前に書面で説明し、署名を求める必要があります。訪問介護は利用者の生活空間に入ってサービスを行うため、利用者・家族の理解を得ることが非常に大切です。
事業所が守るべき5つの遵守事項
特定技能外国人を訪問介護に従事させる場合、受入事業所には守るべき重要な事項があります。単に人材を配置するだけでなく、安心して働ける環境と、利用者に安全なサービスを提供できる体制を整える必要があります。

- 訪問介護の基本事項に関する研修の実施
事業所は、外国人介護人材に対して、訪問介護の基本事項や生活支援技術、緊急時対応などに関する研修を実施する必要があります。
訪問介護では、調理、掃除、洗濯、買い物、服薬確認、身体介護など、利用者の生活に密接した支援を行います。そのため、日本の生活習慣や文化、利用者・家族とのコミュニケーション、プライバシー保護、法令遵守、虐待防止、ハラスメント対策なども含めて、丁寧に教育することが重要です。
研修を実施した場合は、研修資料、出席記録、研修レポート、シフト表、研修計画などを保存しておくと安心です。
- サービス提供責任者等による同行OJT
訪問介護の現場に入る前後には、サービス提供責任者や先輩職員が同行し、一定期間OJTを行う必要があります。
同行OJTでは、サービス内容の手順を理解しているか、記録や報告ができているか、緊急時の連絡体制を理解しているか、利用者と適切にコミュニケーションが取れているかなどを確認します。
特に訪問介護では、利用者ごとに身体状況、生活環境、家族関係、支援内容が異なります。そのため、外国人介護人材が安心して一人で訪問できるようになるまで、事業所側が段階的に支援することが大切です。
- 本人への説明とキャリアアップ計画の作成
事業所は、外国人介護人材本人に対して、訪問介護の業務内容や注意事項を丁寧に説明し、本人の意向を確認したうえで、キャリアアップ計画を作成する必要があります。
キャリアアップ計画は、事業所が一方的に作るものではありません。外国人介護人材本人と事業所が共通認識を持ち、今後どのような技能を身につけるのか、どのような資格取得や日本語能力向上を目指すのかを確認しながら作成します。
訪問介護への従事は、外国人介護人材にとっても大きなステップです。本人が不安を抱えたまま業務に入ることがないよう、十分な説明と意向確認が必要です。
- ハラスメント対策の整備
訪問介護では、利用者宅という密室性の高い環境でサービスを提供することがあります。そのため、外国人介護人材を守るためのハラスメント対策も重要です。
事業所は、ハラスメント防止のためのマニュアル整備、相談窓口の設置、トラブル発生時の対応ルールなどを整えておく必要があります。
外国人介護人材は、言語や文化の違いから、困ったことをすぐに相談できない場合もあります。日頃から相談しやすい雰囲気を作り、問題が起きたときに早期対応できる体制を整えておくことが大切です。
- 不測の事態に備えたICT等の環境整備
訪問先で利用者の体調が急変した場合や、予定外のトラブルが発生した場合に備えて、事業所とすぐに連絡が取れる環境を整える必要があります。
スマートフォン、チャットツール、記録システム、緊急連絡先の共有など、ICTを活用した連絡体制の整備は非常に重要です。
外国人介護人材が一人で判断に迷ったとき、すぐにサービス提供責任者や管理者へ相談できる体制があれば、本人にとっても利用者にとっても安心です。
適合確認申請・巡回訪問・定期報告にも注意
特定技能外国人を訪問系サービスに従事させる場合、事業所は事前に適合確認申請を行い、適合確認書の発行を受ける必要があります。
また、制度上の要件を満たしているか、実際に適切な体制で受け入れているかを確認するため、巡回訪問への対応も必要になります。
さらに、キャリアアップ計画は一度作成して終わりではありません。評価期間ごとに内容を見直し、必要に応じて更新し、定期報告を行うことが求められます。
つまり、訪問介護で特定技能外国人を受け入れる場合は、採用時だけでなく、受け入れ後の継続的な管理と支援が重要になります。
介護事業所にとってのメリット
特定技能外国人が訪問介護でも活躍できるようになることで、介護事業所には大きなメリットがあります。
まず、人材確保の選択肢が広がります。これまで施設介護を中心に働いていた外国人介護人材が、経験を積んだうえで訪問介護にも従事できるようになれば、事業所の人員配置に柔軟性が生まれます。
また、外国人介護人材にとっても、訪問介護はキャリアアップの機会になります。利用者一人ひとりに合わせた支援を行うことで、介護技術だけでなく、日本語でのコミュニケーション力、判断力、責任感を高めることができます。
さらに、事業所が研修やOJT、相談体制を整えることは、外国人介護人材だけでなく、日本人職員にとっても働きやすい職場づくりにつながります。
受け入れ前に確認すべきポイント
訪問介護で特定技能外国人を受け入れる前には、次の点を確認しておくことが重要です。
まず、対象となる外国人介護人材が、実務経験や初任者研修等の要件を満たしているかを確認します。次に、利用者・家族への説明書面を準備し、説明と署名取得の流れを整えます。
そのうえで、事業所内の研修体制、同行OJTの実施方法、緊急時の連絡体制、ハラスメント対策、キャリアアップ計画の作成方法を確認します。
また、適合確認申請や定期報告に必要な書類も整理しておく必要があります。制度に対応した受け入れを行うためには、採用活動と同時に、事業所内の運用ルールを整えておくことが大切です。

まとめ
令和7年4月21日から、一定の要件を満たす特定技能外国人は、訪問介護などの訪問系サービスにも従事できるようになりました。
これは、介護業界にとって大きな前進です。一方で、訪問介護は利用者の自宅で一対一のサービスを行うため、事業所には通常以上に丁寧な準備と支援体制が求められます。
特定技能外国人を訪問介護で活用するためには、実務経験や研修修了の確認、利用者・家族への説明、研修・同行OJT、ハラスメント対策、ICT環境の整備、適合確認申請、定期報告など、多くのポイントを押さえる必要があります。
外国人介護人材の受け入れは、人手不足対策だけでなく、事業所のサービス提供体制を見直す良い機会にもなります。制度を正しく理解し、安心して働ける環境を整えることで、外国人介護人材は訪問介護の現場でも大きな力となるでしょう。
介護分野で特定技能外国人の受け入れを検討している事業所様は、早めに要件を確認し、計画的に準備を進めることをおすすめします。

